老後のために多くのお金を貯めているという人もいるだろう。しかし「資産が多い=幸せ」ではないという。2015年の米プリンストン大学の研究では、年収7.5万ドル(約1000万円)までは、収入が増えるほど幸福度が上がったが、それを超えると幸福度は横ばいになることがわかった。国内でも2019年の内閣府の調査では年収1000万円までは収入とともに幸福度が上がったが、年収3000万円を超えると下がっていく傾向があった。
もしも、お金を貯め込むよりも、使ったほうが幸福度が上がるのなら、どんな使い方をすればいいのだろうか。幸福学研究者の前野マドカさんは言う。
「品物を買うより『体験』にお金をかける方が幸せが長続きすることがわかっています。誰かと外食したり、旅行に行くのはもちろん、陶芸や絵画のスクールや、乗馬やダイビングといった“やってみたかったこと”に挑戦するのも、幸福度が上がるでしょう。誰かのまねではなく、自分で決めて、お金を使うことが大切です」(前野さん)
一方、近著『シンプルで合理的な人生設計』などがベストセラーになっている作家の橘玲さんは、本の執筆に追われ、もともとあまりお金を使わないタイプだと話す。
「本を読むことと原稿を書くことでたいてい一日が終わっていきますが、それで充分幸せです。旅行は趣味ですが、にぎやかなところは苦手。豪華なホテルばかりでは旅の面白さがないので、たまには安宿にも泊まります。
以前、つきあいが重なってミシュランの星つきレストランに週に4回行ったことがありますが、盲腸になりました(笑い)。高級なものは、たまに食べるからおいしいんです。身の丈に合った生活がいちばんの幸せです」(橘さん・以下同)
どうせお金を使うなら、それで自分やまわりの人が本当に幸せになれるか吟味して、有意義に使いたい。ブランド品も家も車も、買ったときは満足しても、すぐにもっといいものが欲しくなる。品物はどうしても人と比べることができてしまうので、もっといいものを持っている人を見ると、途端に自分のものが色あせて見えるのだ。
「モナコの花火大会には、世界中のお金持ちがクルーザーで集まってきます。それを港から眺めていると、クルーザーを持っているだけでも桁違いのお金持ちのはずなのに、推定1000億円はしそうな超豪華クルーザーの隣では、10億円のクルーザーは“最底辺”。お金持ちの比較競争には際限がないと思い知らされました」