ある日突然、連れ合いに先立たれて「ひとり」に──そうなる可能性は、夫にも、妻にもある。だからこそ夫婦で元気なうちから「必要な備え」と「やってはいけないこと」を知る必要がある。
夫婦のどちらかが亡くなると、悲しむ間もなく「手続き」のラッシュがやって来る。それは“プロ”でも一筋縄ではいかないものだ。3年前に父を亡くしたファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢氏が当時を振り返る。
「不慣れな母に代わって、ある程度のノウハウを持つ私が相続申請など各種の手続きをやりました。父は割とシンプルな暮らしをしていましたが、一段落するまで3週間ほどかかってしまった。手続き事案が多い方は落ち着くまで半年以上かかることもあるようで、生前の準備がいかに大切か実感しました」
どちらが先に亡くなっても慌てないために、夫婦とも健在のうちに準備を進めておく必要がある。
まずは様々な死後の手続きで求められる書類を確認しておくことだ。特に運転免許証やマイナンバーカードといった重要書類の保管場所は夫婦で共有しておきたい。さらに風呂内氏は、「戸籍謄本の確認も必須」と語る。
「相続の際は、故人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本が必要になります。本籍を動かしたのが結婚前などお互いに把握していないケースも多いので、生前に本籍地の履歴を夫婦間でまとめておくことが望ましいでしょう」
死後は死亡届などの書類を役所に提出するだけでなく、あらゆることで故人の名義変更が必要になる。膨大な数になったり、申請先が不明になったりする恐れがあるので早めに準備を進めたい。
「銀行口座やクレジットカードは、遺族が解約などの手続きを行なわなければなりません。パートナーに手間をかけさせないためにも、使用頻度が低いものはできるだけ解約して、1つか2つ程度にまとめておくことが大切です」(風呂内氏)
死後の手続きを円滑に進めるには、毎月、何にどれだけお金を使っているかを把握することも不可欠だ。
「特に雑誌の定期購読といった定額払いのサービスは夫婦間で共有していないことも多い。私の場合は、父名義の銀行通帳を見て支払先をリストアップしました。お互いにどんなことに毎月お金を払っているかを調べて、夫婦で共有しておきましょう」(同前)
スマホやパソコンを通じて操作するネット証券などでの「デジタル取引」も死後に遺族が実態を把握しにくいため、各種IDとパスワードをエンディングノートに書き出しておくとよい。