今夏に立ち上げたクラウドファンディングが、開始から約9時間で目標額の1億円に到達し、現在8億円超え。改めてその存在価値が注目された「国立科学博物館(以下・科博)」。一度や二度では見尽くせない展示の数もアツいが、それ以上に“アツい”のは、舞台裏で働く研究者だった! 今回は科博の筑波研究施設の自然史標本資料棟に潜入。“モグラ博士”の異名を取るモグラ研究の第一人者で、動物研究部研究主幹の川田伸一郎さんに話を聞いた。【前後編の後編。前編から読む】
絶対に断らない 絶対に捨てない
標本にする動物はどのように入手するのだろうか。
「動物園や自治体と連携していて、自然死、事故や病気、個体数調整で亡くなった個体が送られてきます。こちらで『ほしい』と頼むことはありませんが、『引き取って』と相談されて断ることも、絶対にありません」(川田さん・以下同)
最近、急激に増えているのが、アマミノクロウサギ。奄美大島と徳之島のみに分布する希少な天然記念物のはずだが……。
「天敵のマングースの駆除が進んで個体数が回復したため、交通事故や犬猫に襲われる数が増えました。10年ほど前から受け入れを始めましたが、そのときには10点程度だった標本が、いまは1000点超えとなりました。これだけの標本を持っているのは世界でもうちだけでしょう」
特別天然記念物、ニホンカモシカの頭骨標本数もおびただしい。
「長野県と岐阜県では林業被害が著しく、1970年代から個体数調整で捕獲をしています。当館には、1988年から受け入れている頭骨が約2万点。衣装ケースに20頭ずつ入れて保管していますが、なにしろ置き場が……」
収蔵場所に困っても、断固として受け入れを断らない、そして捨てないのだとキッパリ。
「断らないし、捨てられるわけないじゃないですか! だって、ここに未来の大発見があるかもしれないんですよ!
たとえば、テンレックという、ハリネズミにそっくりの動物がいます。200年以上前の博物学者・リンネの時代から1997年まではハリネズミの仲間と信じられていて、疑う人は皆無でした。ところが、DNA解析の進歩により『実はゾウの仲間だった』という、200年間の常識を覆す発見がありました。標本×技術革新によって、驚くような発見が可能になるのです。
ぼくは、生きている間に大発見をしたいなんて思いません。むしろ100年後、いや500年後、ぼくの標本がどういう活躍をするのかが楽しみでしょうがない。『数百年前の川田というおかしなヤツがよくぞこれらの標本を残しておいてくれた』と、感謝されるのをニヤニヤ想像しながら毎日標本を作っているわけです(笑い)」
冗談めかして語っていたが、これこそが博物館の標本収集の王道だと、川田さんは確信している。