実家の墓を守る承継者がいない、遠方で頻繁に足を運べない……。様々な理由で「墓じまい」を考える人が増えている。しかし、正しい順序を踏んで進めないとトラブルにつながることもある。墓じまいで気をつけるべき点はどこにあるのか。
コロナ禍も明け、秋の彼岸で久々に大分の実家に帰省して墓参りをしたという都内在住の60代男性はこう呟く。
「何年も墓参りに行けず手入れができなかったので、墓の周りは雑草だらけになっていました。私は長男なので、そのうちこの墓の承継者になるのですが、山奥にあるので行くだけでも体力的に辛いし、私の妻や子供がその墓に入る予定もありません。
そのうえ、今回の墓参りの際に住職から『しばらく法要に見えていませんね。ご先祖様が嘆いていますよ』と、暗に法要の回数を増やすように促されました。もう墓を閉じたほうがいいのかなと考えるきっかけになりました」
この男性のように、久々の里帰りで“実家の墓”をめぐる面倒ごとに直面し、墓じまいに取りかかる人が増えている。厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、墓じまいを行なった人はここ10年で1.5倍に増加した。2011年度の墓じまい件数は約7万7000件だったが、2021年度は約11万9000件に達した。
子供の手間が気になる
大橋石材店代表でお墓コンサルタントの大橋理宏氏が語る。
「ここ数年、団塊世代が親を亡くす年代に差し掛かり、そうした人たちを中心に実家の墓じまいが差し迫った問題として捉えられるようになっています。
日本人が長生きになったこともあり、昭和の時代に祖父母を亡くして以降、近しい身内の死を経験していなかった団塊世代も多い。それが自分の親を亡くしたことで、墓の管理や寺との関係を考えるきっかけになり、“自分の子供たちにはこんな手間をかけさせたくない”と考える人が増えているようです」
墓じまいとは、今ある墓を撤去して更地にして、寺や霊園などの墓地管理者に区画を返すことを指す。新たな墓所に納骨することは「改葬」と言うが、近年は一連の手続きを「墓じまい」と呼ぶことが多い。
墓の撤去に始まり、新たな墓地を探して遺骨を移すまでには多くの労力や費用が必要となる。そして、やり方を間違えると、親族との関係や金銭面などで様々なトラブルに発展することもあるという。