「一つ、犬神家の全財産、ならびに全事業の相続権を意味する、犬神家の三種の家宝、斧、琴、菊、すなわち斧琴菊は、次の条件のもとに野々宮珠世に譲られるものとす」
犬神財閥の創始者・犬神佐兵衛が巨万の富を残して亡くなり、一堂に会した犬神一族を前に顧問弁護士が佐兵衛の遺言書を読み上げる。すると親族は震え上がり──。
菊人形とすげ替えられた首、天窓から苦悶の形相で見つめる死体、湖面から足が突き出た死体など数々の不気味なシーンで知られるミステリー『犬神家の一族』は、遺言書をきっかけに凄惨な連続殺人が発生する昭和の名作だ。
当時から時に骨肉の争いを生む火種としてとらえられてきた財産の相続は現代社会でも「争続」ともいわれ、残された親族は根強い確執を招くこともある。都内在住で、3人の子供がいる女性・Aさん(71才)はいま、遺言書を書くかどうかが目下の悩みだとため息をつく。
「夫が10年前に他界し、私も年齢が年齢なので不動産などをどうしようか悩んでいます。子供たちに争いのもとを作らないために遺言書を書いた方がいいとは思います。けれど、自分がいつ死ぬか、今後財産の状況や子供との関係がどうなるかわからないから、内容によってはかえって相続トラブルが発生しそうで躊躇しています」
そうした不安の声に円満相続税理士法人の税理士・公認会計士の中岡倫邦さんは、「安心してください。遺言書は書き換えられます」と答える。
「本人の存命中であれば、遺言書の内容は何度も変更することができます。一度遺言書を書いてから気持ちや状況が変化するのはよくあること。そのたびに一部を修正したり、場合によっては一から書き直すことも可能です」(中岡さん・以下同)