「相続をめぐっての骨肉の争いで、兄弟姉妹が離散」という話を聞いても、「たいした資産もないから大丈夫」「うちに限ってそんなことはありえない」と思う人も多いだろう。
しかし、『生前から始める「えんまん相続」のすすめ』の著者で、司法書士上木拓郎さんは、「『わが家は大丈夫』と言っている人こそ危険です。相続がきっかけで“争族”となってしまうのに資産の額は関係ありません」と指摘する。
上木さんがいうように、2021年「司法統計」情報を見ると、相続をめぐって裁判が起きた遺産の額は「5000万円以上」が44%ともっとも多いが、その次が「1000万円以下」で32%。
1000万円にも満たないお金で、家族が罵り合い貶し合うことがあるわけで、“争族”は決して他人事ではないのだ。
コミュニケーション不足がまねく争続
これまで2500名以上の相続相談に応じてきた上木さんは、その経験から、「相続でもめる家に共通するのはコミュニケーション不足」と断言する。
親子間、きょうだい間の関係が希薄で、お互いを思う気持ちがなくなり、そこにお金がからむわけだから、諍いになるのも当然といえば当然なのかもしれない。
「たとえば、年老いた父親を長男が同居しながら長年、世話をして、弟はもう十数年、実家に近寄りもしないというお宅がありました。財産は自宅の土地と建物で、現金はほとんどないという状態だったのですが、父親の死後、弟が法定相続分を主張。長男は思い出の詰まった実家に住み続けることを望んでいたのですが、現金がないため、実家を売却せざるを得なくなった、ということもありました」
話だけ聞けば、「そんな薄情な弟にビタ一文渡す必要はない!」と思う人もいるかもしれないが、そうできないのが現実だ。