『M-1グランプリ2023』(テレビ朝日系)で優勝した令和ロマン(高比良くるまと松井ケムリ)は、私立中高一貫校からの慶應義塾大学出身という高学歴ぶりも注目されている。『中学受験 やってはいけない塾選び』の著者であるノンフィクションライター・杉浦由美子氏は「高学歴芸人は賞レースに強いが、今はYouTubeなどで台頭する若手芸人もおり、そちらでは別の能力が必要」という。お笑い芸人に求められる能力と受験で求められる能力の相関はどうなっているのか。私立中高一貫校の教育カリキュラムも紹介しながら杉浦氏が読み解いていく。【前後編の後編。前編から読む】
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前回記事では、『M-1グランプリ2023』で令和ロマンが優勝し、彼らが中学受験をし、名門私立中高一貫校を経て、慶應義塾大学に進学をしたことから、「なぜ、高学歴芸人は賞レースに強いのか」ということについて考察した。令和ロマン以外でも学生お笑い出身の高学歴な芸人が今、M-1では数多く台頭している。
その理由は、受験を乗り越えてきた彼らは、与えられる課題をクリアするための分析をする能力が高く、対策を立てるのが得意だからと考えられる。要は論理的な思考をするよう鍛えられているのだ。
こう書くと、「どんなジャンルでも高学歴な人間は強いんだろう」といい出す人がいそうだが、それはちょっと違うということも考えていきたいと思う。今回は、お笑いの世界での新しいキャリアの積み方を見て、受験や学歴では得られない力について言及しよう。
王道の出世ルートは「賞レース」と「テレビ」だったが
なぜ、M-1に若手芸人はすべてを捧げるのか。それは数少ない若手の登竜門だからだ。無名の若手芸人も、賞レースで注目されれば、仕事が増え、一気に売れっ子になるチャンスが与えられる。各事務所の中でも賞レースで成績を残した芸人を重用する傾向がある。その賞レースは高学歴芸人が強い。彼らは勉強が得意なので、分析と対策を立てるのがうまいからだ。受験勉強では過去問を大量に解いて分析し、傾向と対策を立てていく。賞レースはそれをはるかにハードにしたようなものだ。M-1の決勝になんども出場している芸人たちは、過去のM-1の録画を何十回も見て分析し、傾向と対策を立てている。そういった作業を高学歴芸人たちが得意とするのは当然だろう。令和ロマンはネタを作る能力、演技力、表現力、すべてにおいて優秀だが、そこに加えて「勉強をする力」があるから初出場で優勝ができたようにも見える。
ただ、賞レース以外にも芸人が売り出していくルートはある。まず、王道としてはテレビで注目される道だ。
吉本興業の人気コンビ、EXITは『ゴッドタン』(テレビ東京系)に出演したときに、軽薄な外見や振る舞いと真面目な性格のギャップが受けて、そこから仕事を増やしていった。あるお笑いファンはいう。
「彼らがブレイクする少し前と、ブレイク後に生の舞台を見ましたが、別のコンビみたいにうまくなっているのでびっくりしました。テレビで売れてくると忙しくてネタが駄目になるコンビも多いのに、彼らは違うんです。今年の準々決勝でもネタを見ましたが、さらにうまくなっています。“チャラそうに見えて実は真面目”というキャラクターで売っていますが、漫才を見るとそれが裏づけされていることがわかります」
マセキ芸能社の三四郎も同じく『ゴッドタン』への出演がきっかけで注目されて、テレビやラジオでの露出を増やしていった。賞レース、テレビ番組に出て注目されるといったものが従来の若手の登竜門だった。
ところが、今のネット社会では違うルートが開かれている。TikTokやYouTubeなどの動画配信サービスだ。