この4月から医療現場でも「働き方改革」が始まる。勤務医の残業時間の上限が規制されることになり、地方によっては「医師不足」に拍車がかかるのではないかとの懸念が広がっている。しかし、事はそう単純ではない。実は、人口減少時代には、医師の数を増やすことがさらに深刻な課題につながっていく未来が身近に迫っているという。ベストセラー『未来の年表』シリーズの著者・河合雅司氏が解説する。【前後編の前編。後編を読む】
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医師不足と言われて久しいが、数年後には「医師余り」時代へと転じる。
厚生労働省の推計によれば、医学部入学定員を2020年度の9330人で維持し、働き方改革を踏まえて「医師の労働時間を週60時間程度に制限」した場合、2023年に医学部に入学した人が医師になる2029年には需給バランスが均衡するというのだ。すなわち、翌2030年以降は「患者不足」に陥るということである。
理由は簡単だ。人口減少が進むというのに、医療体制が脆弱な地方の要望に圧されて過剰な医師養成を続けてきたからである。
医師不足は、医師の総数が少ないというよりも地域偏在に因るところが大きい。ところが、医療の充実は有権者へのアピール材料になるとあって、政治家たちは説明がしやすい医学部の定員増を積極的に推進してきたのである。
文部科学省によれば、医学部の入学定員は1982年および1997年の閣議決定で抑制され2007年度は7625人だった。しかしながら臨時の定員増によって2009年度は8486人に引き上げられ、2010年度以降は「地域の医師確保等の観点」という名目で最大9420人にまで拡大された。直近の2024年度は9403人だ。