2024年の中学受験者数は前年よりやや減少したものの、受験率は過去最高となった。難関となる受験を突破するために各家庭はさまざまな手段を講じている。一つの塾に通うだけでは終わらず、個別指導塾などにも教育費を増やしていき「重課金」となることも。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【全5回の第4回。第1回から読む】
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2024年度の中学受験も過熱は続いている。受験率が高止まりしているが、それと同時に「課金ゲーム」化も過熱している。
中学受験の平均的な費用は受験料込みで300万円。しかし、500万円、600万円と課金していくケースもある。
課金ゲームと非常に似ているのは「課金するつもりはなかった」のに、気づくと課金額が嵩んでしまうことだ。誰しもがスマートフォンでゲームぐらいはするだろう。しかし、何十万円も課金をしてしまう人は全体の中では一部であろうがそれなりの数がいる。
さて、なぜ、ゲームでも中学受験でも課金する人としない人がいるのか。今回は、前回記事から続いて、思わぬところから重課金に陥っていった、目黒区に住む共働き家庭のA子さんの話を紹介しよう。
妻が部長に昇進し、夫は家事負担が増える
中堅メーカーの営業部署に勤務しているA子さんは、息子が5年生に上がるのと同時に部長職に昇進した。
「うちみたいな中堅企業は優秀な人たちは転職していくんです。本当なら同期の男性が部長になる予定だったんですが、彼が転職したので私にお鉢が回ってきたんですよ」
自虐的に笑い、こうもいう。
「大手企業だと部長は完全に管理職。部署を管理するのが仕事です。しかし、うちみたいな微妙な中堅企業だと部長は管理職かつプレイヤーなんですよ」
地方の企業にかかわる業務を担当しているが、これがやっかいだという。
「地方はコンプライアンスの感覚が違います。クライアントの男性社員たちとカラオケに行って、一緒にデュエットしなきゃいけないような感じなんですよ。そんなのは今どきの若い女性社員には耐えられません。そうなると、私が出張しないといけなくて」
結果、地方への出張が増えていく。泊まりで行くこともしばしばある。そうなると子どもの勉強を見てあげることができない。
「夫が頑張ってみていましたが、算数が教えられないんですよ。中学受験を経験してないですからね。あと、夫は勉強が得意だったので『なんでできないんだ』とイライラするみたいで」
しかもA子さんの出張中は夫が家事をするので勉強を教える余裕もなくなっていった。