親の介護では、子が寄り添って、手間も時間もかけて責任を持つべき――そうした考え方が当たり前と思っているなら、立ち止まって考えたい。使える制度をフル活用して、できる限り“プロである他人”に任せる。そんな「親不孝」に見える介護こそが、実は親にとっても子にとっても、望ましい選択肢である可能性が高いからだ。
距離を置いて“いい関係”に
親が介護を必要とする時期に差し掛かり、「そろそろ同居や実家近くへの引っ越しを準備しないと」と真剣に考える人は少なくないだろう。
厚生労働省が発表した最新の推計によると、16年後には65歳以上の高齢者の3人に1人が「認知症」か、その前段階の「軽度認知障害」になる。2030年には、仕事をしながら家族の介護に従事する「ビジネスケアラー」が約318万人になるとの推計もある。高齢の親を抱えていれば、介護がいつ自分の身に降りかかってきてもおかしくない。
そうしたなか、介護関係者の間で注目されているのが、「親不孝介護」という考え方だ。提唱者のひとりであるNPO法人となりのかいご代表理事の川内潤氏が語る。
「公的介護サービスなどをフルに活用して、子が時間や手間をかけずにマネジメントに徹する介護のやり方です。他人からは“親不孝”に見えるかもしれませんが、むしろ距離を置くことで良好な親子関係が維持され、お互い穏やかに生活できる可能性が高まるのです」
一般的に、子が親の近くにいて面倒を見ることが「親孝行」と考えられてきたが、川内氏は共著『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』などを通じて、それが誤った認識であると訴えている。
「子が親の近くにいると、自力でなんとか親の心身を衰える前の状態に戻そうとして、外部の力に頼れなくなる。そうすると子にも親にも大変なストレスがかかり、家族が衝突したり共倒れになったりする危険性が高まります。親への思いが強まって一生懸命に介護するあまり、子の生活が壊れ、ついには親に憎しみまで抱いてしまう。そうした“親孝行の呪い”を解くのが、親不孝介護という考え方です」