年金の受給開始時期から新NISAのような新制度の活用まで、老後のお金は自らの決断に委ねられることが増えた。だが、決断次第では虎の子の資産を失いかねない。“しくじり”事例をもとに失敗の法則を学ぶ。
3年前、65歳で会社を退職したAさんは銀行の営業マンに「金利がほとんどつかない日本と比べて外貨建て保険なら3~4%の金利がつく。老後資産の形成のためにどうですか」と外貨建て一時払い保険を勧められた。
「退職金から500万円を一括払いして米ドル建て一時払い保険に加入しました。その後の円安相場で多少の利益が出たものの、加入して数年で解約したことで『解約控除』という罰金のような費用を8%も取られました。ほかにも様々な手数料を取られて、結局は元本割れになりました」(Aさん)
ファイナンシャルプランナーの横川由理氏が指摘する。
「定年退職のタイミングで銀行や証券会社などから『海外金利で資産運用しながら、万が一の時には死亡一時金も受け取れる』と外貨建て保険を勧められて加入する人が多い。利率の高さなどのメリットはありますが、注意すべき点もあります」
金融庁が注意を促す“手数料の二重取り”
外貨建て保険の加入でネックは手数料だ。
「保険会社や銀行に取られる手数料が高く、6~7%を手数料として抜いた金額を運用します。円と外国通貨を交換する際にも一定の為替手数料がかかります。100万円を米ドルに換えると数千~1万円台の為替手数料がかかることも。加入者にとって“見えない損失”が大きい」(同前)
また、加入した年に解約すると10%、2年目は9%、3年目は8%など、短期間で解約すると解約控除(解約手数料)がかかり解約返戻金が減額される。冒頭のAさんのように解約のタイミングによっては元本割れするリスクがある。
さらに金融庁が注意を促すのが、手数料の二重取りだ。外貨建て保険はあらかじめ目標設定した含み益に達すると、自動的に円建てに切り替わるタイプが多い。
「外貨での運用をストップし、円で資産を保有することになった顧客に、『儲かったからまた同じ商品で運用しませんか』と再契約を勧めるケースがあります。一度解約して同じ商品を再契約させ、販売手数料を二重取りするのです。金融庁は今年4月、関連業界に改善要請を出しました」(同前)