闘う経済アナリスト・森永卓郎氏の連載「読んではいけない」。今回は「年金改革」について。22歳以降ずっと厚生年金保険料を払い続けてきた森永氏は、年金の恩恵を一切あずかれずにいるという。日本の年金制度の問題点と、その場しのぎの年金改革について警鐘を鳴らす。
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振り返れば、22歳で日本専売公社(現JT)に入社して以来、関連組織への出向や教授としての大学赴任なども併せ、45年間にわたり厚生年金保険料を払い続けてきた。だが、年金の恩恵には一切あずかれずにいる。65歳になったタイミングで年金受給の申請をしたが、1円たりとも貰えていないのだ。
すべては「在職老齢年金制度」のせいである。厚生年金の受給者が65歳以降も働き続けた場合、年金月額と月給の合計が50万円を超えると、超過額の半分が年金から減額される。年金だけでは生活が苦しく、老体に鞭打って働くと肝心の年金がズルズル減っていく酷な制度で、65歳以上の就労を抑制する要因になっていると言われる。
目下、厚生労働省は在職老齢年金制度を見直し、減額となる基準額を60万~70万円台に引き上げる検討に入ったが、それで65歳以上の就労抑制が止まるかは甚だ疑問だ。
確かに、「稼ぎの多い金持ちは少し我慢しろ」との主張には、ある程度の正義がある。日本の年金制度は現役世代がリタイア世代を支える賦課方式を基本としており、経済的余裕のある者の負担が増えるのもやむをえまい。だが、払うだけ払って1円も貰えないのは納得しかねる。
収入が多くなるほど税率が高くなる累進課税の所得税でさえ、税率は最大45%だ。私にとって日本の年金制度は、「税率100%」のやらずぼったくりに近い。
おかしな点はそれだけではない。通常、年金受給を繰り下げて70歳からの受給を選ぶと、給付は月額で42%増える。ところが、在職老齢年金制度で減額になった部分は考慮されず、70歳から受給しても増額されない。