イーロン・マスク氏率いるDOGEの動向にも注目(Getty Images)
予測不能な政策を次々と打ち出し、世界経済に混乱をもたらすトランプ米大統領。そのトランプ政権の進む先を左右するとされる存在が、実業家として政権入りしたイーロン・マスク氏だ。同氏の言動などが引き金となって、日本を含む世界経済がかつてない危機を迎える可能性があるという。【前後編の後編】
■前編記事:【崩れ始めたトランプ政権内のパワーバランス】イーロン・マスク氏の影響力が強まり、“MAGA派”との間の亀裂はさらに深まるか その先に危惧されるマスク氏主導の“粛清”と世界経済の混乱
米政府の人員削減がそのまま景気後退につながる
マスク氏がさらに政権内の主導権を握った場合、まずは米国経済への悪影響が懸念される。マスク氏率いるDOGE(政府効率化省)が進める政府職員らの大幅削減は100万人規模に達するとも見られている。人員削減計画の対象が政府に直接雇用されている職員だけでなく、全体の66.5%を占める非正規の契約労働者520万人にまで及ぶからだ。米国の政治経済に詳しいジャーナリスト・中岡望氏が言う。
「すでに、マスク氏が推し進めた政府職員の人員削減で米国の失業率が上がっています。州によっては全雇用の4?6%が連邦政府の仕事に就く公務員である以上、看過できない動きです。失業者が増えれば社会全体の不安も高まり、消費も冷え込んでいく。政府の人員削減がそのまま米国の景気後退につながるということです」
毎月第一金曜に発表される米国雇用統計は、株価への影響が大きいことで知られる。昨年8月に市場予想に反して失業率が0.2ポイント上昇した際は、NYダウが600ドル超急落。今年3月10日の大幅下落からもわかるように、市場が不透明感に包まれるなか、マスク氏の人員削減策が失業率を急上昇させれば、当時の比ではない“大暴落”の引き金となりかねない。
マスク氏は国連やNATOからの脱退にも賛成の立場を鮮明にする。その“孤立主義”はトランプ氏が掲げる保護主義的な貿易政策を加速させる恐れがあり、日本をはじめとする諸外国への影響もより大きくなる。国際政治経済学者で元参院議員の浜田和幸氏が言う。
「トランプ氏の看板政策となっている海外からの輸入品への『関税』引き上げですが、これによってまず起きるのは米国の物価上昇であり、その割を食うのは米国の消費者です」