終の住みかを決めるときに、「誰と住むか」は、「どこに住むか」より、もしかすると大事な問題かもしれない。すでに“住み方”を決めた先人の思いと覚悟とは──。「高齢社会をよくする女性の会」代表で、『その介護離職、おまちなさい』(潮新書)などの著書がある評論家の樋口恵子さん(85才)は去年、自宅を建て替えたばかりだと言う。
「もとの家は、亡き夫と40代の時に建てた木造の戸建て。数年ほど前から隙間風に悩まされるようになり、専門家に見てもらったら、“次に大地震が来たら全壊する”と…。それで、建て替えを決意したんです」
樋口さんはご主人を亡くされてから、娘さんと2人暮らしを続けていた。しかし老後は娘から離れてホームなどに入るつもりで、建て替えなど思ってもみなかったと言う。
「娘はひとり身ですから、介護となると相当の負担になります。仕事を辞めさせるなんて、私の主義に反します。そうなると、自分の終の住みかは、有料老人ホームだと思ったんです」
有料老人ホームに入るための資金を用意し、人生最後のぜいたくをしようと、楽しみにしていた。
「私は食いしん坊ですから食事のおいしいところを探していました。一時帰宅しやすいよう自宅からタクシーで片道1000円くらいの距離に目星をつけてね。必要が生じたらすぐ入れるよう、入居費用は普通預金に貯め、すぐに下ろせるようにしていたほど。定期預金は下ろすのが大変ですからね」