サラリーマンが定年退職を機に手にする退職金。これまで手にしたこともないようなまとまったお金だけに、その使い途に頭を悩ませる人は少なくない。
2年前に大手メーカーを退職した鈴木さん(62・仮名)は投資に熱心な友人から勧められたこともあって、2000万円の退職金のうち100万円を使って数銘柄の株式を購入した。
「長期保有向きだと説明を受けたのですが、チャートを見るたび右肩下りで毎日不安です」(鈴木さん)
「退職金」というまとまったお金が入った瞬間にこそ考えなければいけないことがある。「手元資金のうち、どのくらいを投資に回すか」というポイントだ。前出・鈴木さんも、「調子に乗っていきなりもっと多額の資金を投じていなくて本当によかった」と振り返る。くじらやFPオフィス代表の日野秀規氏が指摘する。
「大原則として、投資に回すのは“目減りしても許容できる範囲のお金”にするのが賢明。各種統計や調査から推計すると、概ね1300万円程度は医療費や介護費など、“なくなると本当に困るお金”と考えられます。退職金と定年までの貯蓄の合計が1300万円を上回る部分を余裕資金と考えて投資に回すことを検討するとよいでしょう。
分散投資が基本で、余裕資金が数百万円程度なら、大きなリターンは望まずリスクを抑えることをより優先する。1000万円超の余裕資金があって初めて、比較的値動きの大きい金融商品が選択肢になってくる」
過去に手にしたことのない大金が入ってくるからこそ、浮き足立たずに冷静な検討が必要だろう。
※週刊ポスト2019年6月21日号