「あのお店、最近よく見かけるなぁ」「以前はよく目にしたのに、もうなくなったのか」──街中を歩いていると、飲食チェーン店の移り変わりの激しさに驚かされる。
そうしたチェーン店の出店戦略として有名なのが、特定の地域に集中的に出店する「ドミナント戦略」だ。多店舗化することでブランドの認知度が上がるだけでなく、仕入れ・配送にかかるコストが下がり、低価格での販売が可能になる。現在は飲食業界の人手不足が深刻だが、近隣に店舗があればスタッフの融通も利くし、廃棄ロス軽減にも繋がる。
居酒屋チェーン『鳥貴族』は、新宿駅・渋谷駅の近辺にそれぞれ9店舗ずつを構えるドミナント戦略が特徴的で、全国659店舗を展開している(2019年5月末時点)。
このようなドミナント戦略は都心のターミナル駅など特に人通りが多い場所で集中的に出店するのが定石だが、そうした従来の出店戦略とは異なるアプローチで規模を急拡大しているのが『串カツ田中』だ。
2008年に東京・世田谷で開業し、約10年で全国241店舗を展開している。その特徴は、「住宅街」を中心に出店している点だ。
外食業界に詳しいジャーナリストで『居酒屋チェーン戦国史』などの著書がある中村芳平氏が解説する。
「2008年11月、世田谷区の住宅街のスナックを居抜き、14坪の敷地を坪3万円で借りてオープンし、2009年夏には月商800万円を売り上げました。メリットは、経営コストにおける家賃比率が少なくて済むことです。大手居酒屋チェーンが出店する駅前や繁華街の家賃比率は12%前後ですが、串カツ田中は10%以下です。そのぶんを食材の原価に回して高品質化・高価値化ができる」