「契約取るまで帰ってくるな!」──若かりし頃にそんな言葉を上司からぶつけられた営業マンは多いだろう。つらくとも、足を棒にして何度も顧客を巡り、縁もない会社に“飛び込み営業”して見知らぬ人に声をかける。成約に漕ぎつけた喜びは大きく、“目標”をクリアすれば給料も上がった―─それが営業マンの醍醐味であり、ひいては右肩上がりの日本経済を支えていた。だが、今やそのスタイルは“It’s OLD営業”と呼ばれるようで……。
保険料を二重払いさせるなどの不適切販売問題を起こしたかんぽ生命は「営業ノルマ廃止」に踏み切った。
「7月31日に2019年度の営業目標を撤回、販売員のノルマも廃止しました。これまでは年度ごとに営業目標を設定し、全国の各郵便局や販売員にノルマを割り当ててきましたが、それがプレッシャーになり、新旧契約に重複加入させるなどの不適切な販売につながったと判断しました」(かんぽ生命広報部)
「脱ノルマ」に向かっているのは、問題が発覚したかんぽ生命だけではない。金融、不動産、製造業などで、同様の動きが広がっている。大手銀行のベテラン行員が語る。
「銀行はノルマ至上主義の典型だったが、2017年3月に金融庁が『顧客本位の業務運営に関する原則』を公表したことを受けて、大きく舵を切った。窓口での投資信託の新規販売総額のノルマを撤廃することになりました」
超低金利が長引くなか、多くの銀行が金融商品の販売による手数料を収入源としてきた。それにより「顧客のためにならない商品を無理して売る」ことになっていないか、所管官庁である金融庁が警鐘を鳴らしたわけだ。結果として、2019年4~7月期の大手銀行5グループの投信販売総額は前年同期に比べて4割も減った。ノルマをなくして業績が落ちたと見ることもできそうだが、前出のベテラン行員は「悪いことばかりではない」という。
「営業方法の見直しが、短期的に収益減になるのは避けられない。しかし、無理な営業で販売ノルマを達成しても、長期的な信頼は得られないし、現場も疲弊する。長期的に見れば、預かり資産を着実に伸ばしていければ将来的にその運用などで利益を生むし、優秀な人材が辞めていくのを防ぐことにもつながる」