何を食べるか、どんな生活をするか、そういったある意味では「自己責任」の積み重ねでもある「健康」にも、所得や経済的な状況の違いによって格差が生じてきている。「健康格差」の実態はどのようなものなのか。
2015年に発表された厚生労働省「国民健康・栄養調査結果」によれば、所得が600万円以上の世帯に比べて、200万円未満世帯の人は、肥満の割合が高いことがわかった。問題はそれだけではない。低所得世帯の人は「穀類の摂取量が多く、野菜類や肉類の摂取量が少ない」「習慣的に喫煙している者の割合が高い」「健診の未受診者の割合が高い」「歯の数が20本未満の者の割合が高い」ことも明らかになっている。
夜なかなか寝付けない、夜中に何度も目が覚めてしまうといった睡眠障害も、所得が低い人に多いことがわかっている。「健康格差」について長年研究を続ける、千葉大学予防医学センター教授の近藤克則さんが解説する。
「65才以上の人を対象に調べた結果、不眠の割合は年収が400万円以上の人で約49%、対して年収200万円未満の人は約60%にもおよびました。さらに、学校で教育を受けた年数が短いほど、不眠の割合が高いこともわかっています。
65才以上の低所得者に不眠が多い理由としては、年金の受給額が少なく、病気のために働き続けられなかったりすれば、将来の心配や不安で眠れないことなどが考えられます」
うつの割合も、低所得者ほど高くなる。うつというと、長時間労働の会社員がなりやすいイメージだが、近藤さんの研究データによれば、うつ状態と判定される高齢者は年収400万円以上の人に比べ、年収100万円未満の人では男女関係なく平均5倍も多いという。