政府は高齢世代の就労意欲を削がないために“多く稼いでも年金は減らさない”方向で「在職老齢年金」制度を改正し、早ければ来年から実施する方針を打ち出した。
現在、働きながら「厚生年金」を受給する人は約368万人、そのうち3割にあたる124万人が年金を減額されている。
現行の年金減額のルールは、「年金(厚生年金の報酬比例部分)+給料」の合計月収で決められる。65歳以上は合計月収47万円、65歳未満(60~64歳)は同28万円を超えると、超過分の半額にあたる年金額がカット(支給停止)される。ただし、カットされるのはサラリーマンが加入する厚生年金の報酬比例部分のみだ。
厚労省が10月9日、政府の社会保障審議会年金部会に提出した見直しケースの中では、年金カットを行なう基準を「合計月収62万円」に引き上げる案が有力だという。
在職老齢年金のルール変更のメリットが最も大きいのは、65歳になる前に厚生年金の特別支給(報酬比例部分)をもらえる“得する年金”世代だ。
「得する年金」をもらえるのは、男性は1961年4月1日(現在58歳)、女性は1966年4月1日(現在53歳)以前に生まれた世代のサラリーマンだ。
たとえば、現在62歳の会社員A氏は63歳になる来年から厚生年金の特別支給(報酬比例部分のみ支給)が始まる。年金額は約10万円だが、雇用延長後もフルタイム勤務で働き、月給38万円稼いでいるA氏は、現行制度のままでは年金を全額カットされる。
しかし、ルールが変更(基準額62万円に引き上げ)されれば、月額10万円の年金を全額もらえるため、65歳になるまでの2年間で給料を稼ぎながら年金が240万円増える計算だ。
在職老齢年金のルール変更は65歳以降にも適用されることから、すでに年金を受給している世代も、現役世代にもメリットがあるが、とくに男性「58~62歳」、女性「53~60歳」の世代へのプラス影響は大きく、制度改正のメリットを最大に活用するための工夫がより重要になる。
※週刊ポスト2019年11月1日号