「あら、また同じ広告が…」。東京都在住の主婦・今野善子さん(仮名・50才)は自宅のパソコンでフェイスブックを立ち上げて、頭をひねっていた。赤ちゃん用のおむつ、粉ミルク、抱っこひも……。ここ最近、パソコン画面に表示されるのが、ベビー用品の広告ばかりなのだ。彼女には大学生の娘が1人いるだけで、当然2人目の予定もない。
「最近、赤ちゃん用品の広告ばかり表示されるのよ…」
善子さんがふと食卓でそうつぶやくと、一人娘が青ざめた顔になってガタガタと震え始めた。話を聞けば最近妊娠していることがわかったが、どうしても善子さんに言い出せなかったのだという。
こそこそと自分のスマホで妊娠や出産について調べていた娘だったが、自宅のパソコンも、スマホと同じメールを受信できるようにIDとパスワードでログインしていたため、履歴がひも付けされてしまった。それでベビー用品が広告として表示されるようになったようだ。もはや家族に言えない秘密もインターネットが暴露する時代になった。
ネットやスマホが生活を便利にする一方で、何気ない検索ワードやネットショッピングの決済クリック、SNSの投稿内容、メッセージは、積み重なって膨大なデータとなる。そればかりか、そのデータを悪用され、詐欺などの犯罪に巻き込まれる可能性すらあるのだ。
自分から偽サイトにパスワードを入力
個人をターゲットにする場合、最も一般的な手口が「フィッシング」だ。日本ハッカー協会代表理事の杉浦隆幸さんが言う。
「まず、銀行やクレジットカード会社などのサイトとそっくりの偽サイトをつくり、『ご連絡がありますので、このサイトを開いてください』とURLを張りつけたメールを送って偽サイトに誘導します。そこで銀行口座やクレジットカードの情報、パスワードなどを入力させたのち、本人になりすまして品物を購入したり、不正送金したりします。古典的な方法ですが、いまも被害者が非常に多い」
実際、民間セキュリティー会社の調査では、2019年のクレジットカード情報の流出は過去最大の約34万件で、総被害額は1兆円超といわれる。ネットバンキングの不正送金被害も拡大を続け、2019年11月の被害額は過去最多の約7億7600万円に達したことが明らかになった。