新型コロナウイルスの感染拡大を受け、相次いで緊急経済対策が打ち出されている。売り上げや収入が減ってしまった企業・個人への緊急融資や特例貸付、助成金の拡充といった措置だが、必要な人に迅速に届けるのは難しいようだ。混乱の現場をレポートする。
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「この状態、密集で密閉じゃないか」──60代と思しき男性が声を荒らげる。ここは東京都港区役所、9階にある大会議室だ。
平時には入区式や健康診断などが行われる場所だが、今は区が独自に始めた「新型コロナウイルス感染症対策特別融資あっせん」の特設相談会場として使われている。連日多くの相談者が詰めかけており、この日も午前中から人の出入りが途切れることはなかった。
会場の入り口には消毒用アルコールのスプレーポンプが置かれ、職員は全員マスク着用、順番待ちの椅子も一定の間隔を開けて設置されている。しかし密閉、密接、密集を懸念する人もおり、職員を呼び、クレームをつける場面もあった。
港区が国や東京都に先駆けるかたちで500万円以内の無利子融資のあっせんを始めたのは3月4日だ。期間は今のところ5月29日までとなっている。担当する産業振興課の西川克介氏が次のように説明する。
「港区内には3万9000の事業所が存在します。この数字は他の区に比べてもかなり大きい。昼間人口は95万人です。それだけ多くの人が働いているということです」
同区は2月18日から区内の中小企業診断士に依頼して、緊急相談窓口を開設した。
「はじめのうちは比較的大きな企業からの相談が目立っていたのですが、徐々に中小企業の方の相談が増えてきた。そうした事情もあって今回の特別融資のあっせん事業にいち早く乗り出したわけです。4月15日の段階で1653件のあっせんが決定しています」(西川氏)
4月の第2週までは、区役所の3階にある産業振興課の窓口で対応していたというが、殺到した相談者の列が廊下にまで伸び、他課の業務に差し障りが出るまでになった。そこで9階の大会議室に特設相談会場が設置される運びとなったという。
「3階の窓口では順番待ちの椅子を並べるにもスペースが足りません。どうしても密集、密接になってしまいがちです。比較的大きなスペースである大会議室であれば、そうした部分への配慮もしやすい」(西川氏)
とはいうものの、気にする人はいる。大きなマスクとメガネで顔を覆い、分厚い革手袋をしたままの男性が職員に怒りをぶつける。
「君は3密という言葉を理解しているのかっ!」
順番待ちの椅子はある程度、離して置かれているのだが、確かに2メートル前後といわれる「ソーシャルディスタンス」を確保できているとは言い難い。とはいえ来場者を立ったまま並ばせるわけにもいかず、致し方ない部分もあるように思えるが、男性の怒りは収まらない。
「こんな状態で、クラスターでも発生したら区はどう責任を取るんだ」