コロナ禍による経済活動の縮小は、日本企業全体に大きな打撃を与え、現役世代の収入への影響は必至である。だが、現在の年金受給世代、さらに今後受給する世代も、無縁とはいかなくなる。
コロナ・ショックによる株価暴落で国民の“虎の子”である年金資金は大きく減った。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は今年1~3月だけで約18兆円の損失を出し、昨年の株価上昇による利益をすべて吐き出したうえ、昨年度(今年3月期)の運用実績は8兆円を超える赤字になったと試算されている。年金財政に大きな穴があいたのだ。
なおも年金危機は続いている。政府は2014年に年金積立金の運用方針を見直し、「安全確実」な運用から株式投資を増やしてハイリスク・ハイリターン投資に転換した。
しかし、IMF(国際通貨基金)は新型コロナの感染拡大で世界経済は大恐慌以来の景気後退になると予測し、株式市場は不安定さを増している。このまま年金の金を“ギャンブル”に投じ続ければ、国民は老後資金を根こそぎ失うことになりかねない。
コロナ危機の発生前、国民は「年金だけでは老後資金2000万円不足」という金融庁資料に驚き、不安を募らせたが、年金の運用失敗は不足額が2000万円どころではなくなることを意味している。
そうした中、厚生労働省はコロナが拡大していた今年3月に年金制度改正法案を国会に提出し、まともな議論がないまま5月12日には共産党を除く与野党の賛成で衆院を通過、今国会での成立が確実となった。
年金改正法案は具体的には、【1】パートなど短時間労働者の厚生年金の適用拡大、【2】在職老齢年金の支給停止基準の緩和、【3】年金繰り下げの年齢上限を75歳に引き上げ――の3つの柱が盛り込まれている。