真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

日米で存在感を増す個人投資家、機関投資家もなぎ倒す“群れ”の勢力

米ゲームストップ社の株価は一時1万%以上急騰した(写真/EPA=時事)

米ゲームストップ社の株価は一時1万%以上急騰した(写真/EPA=時事)

 人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第12回は、株式市場で存在感を増す個人投資家の行動について分析する。

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 NYダウにナスダック総合指数、S&P500と米国株式市場で史上最高値更新が続くなか、2月15日、ついに日経平均株価も30年6か月ぶりとなる3万円台を突破。日米ともに株高基調が鮮明となっている。

 これはまさに今、行動経済学で言う「ハーディング現象(群集心理)」が起きている状況と言える。ハーディング現象とは、一人で行動することには抵抗を感じるが、大勢と同じ行動を取ることに安心感を抱き、周りの動きに同調すること。とりわけ米国では、「ロビンフッダー」と呼ばれる、スマホで取引できる手数料無料のネット証券「ロビンフッド」を駆使する個人投資家たちが“群れ”を成して株式市場に流れ込み、大きな影響を及ぼす存在となっている。

 今年1月下旬には、米ゲームソフト小売りチェーン「ゲームストップ」の株を巡り、大きな騒動が起きた。業績不振が囁かれる同社の株に大がかりな空売りを仕掛けた機関投資家や大手ヘッジファンドに対抗し、個人投資家が団結して同社の株を買う動きが高まった。同社の株価は1日で1万%以上も上昇し、ゲームストップ社以外の空売りを仕掛けられていた銘柄も軒並み急騰。不特定多数の個人投資家が名うてのヘッジファンドを追い詰める「個人投資家の乱」を引き起こしたのだ。

 かつて、リーマン・ショック後に「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」という合言葉のもと全米で抗議行動が広まったが、個人投資家が束になってウォール街のプロを攻め立てるさまは、まさにその再来のようにも映った。

 ただ、あの時と今とでは、個人を取り巻く状況は異なる。まず今は、コロナ対策として政府から配られた現金給付や失業給付を元手に株を買い漁ることができる「お金」がある。そして、「SNS」を武器に不特定多数の個人が団結することも可能になった。今回も、「レディット」というSNS内の株式取引フォーラム「ウォールストリート・ベッツ」で、ヘッジファンドの空売りを締め上げようという個人投資家の動きが加速して相場を動かした。

 そうした“群れ”を作りやすい状況が生まれ、不特定多数の個人投資家が大挙して押し寄せ、ヘッジファンドを打倒。「お金」と「情報」を武器に、無数のアリが巨体のゾウを倒すような構図となった。もはやこうなると、大雨が川に流れ込むというレベルではなく、水と土砂が混合して「土石流」となり、すべてをなぎ倒すかのような凄まじいエネルギーと化していると見ていいだろう。

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