長年、住み慣れた自宅であっても、子供にかかるさまざまな負担を考えたら、“早めにたたんでおいたほうがいい”という考える高齢者も多いだろう。息子や娘に、片付けや売却などの負担をかけないため、“家じまい”を勧めるサービスも巷に溢れている。しかし、郊外の一戸建ては、近年、価値が下落しており売ろうと思っても買い手がつかないケースもある。
また、たとえ買い手がつく物件であっても、処分を急ぐとろくなことがないという。住宅ジャーナリストの榊淳司氏は「不動産業者のなかには、悪質なビジネスを展開するところもあるので注意が必要」と指摘する。
「中古物件の売買では、『両手取引』と呼ばれる慣行があります。仲介業者は売り主から売却価格に応じた仲介手数料を受け取れますが、その業者が買い手を見つけてくれば、買い主からも手数料を受け取れる。これが両手取引です。両方から手数料をもらいたい業者が、他の仲介業者が“買い手がいる”と連れてきても“商談中だ”などと嘘をついて断わってしまうケースがあるのです」
なかなか買い手がつかなければ、売る側は焦る。そこにつけ込まれるリスクもあるという。
「業者のなかには、最初にあえて市場価格より高い査定額を出して売り主から専任契約を取り付け、後になって“やっぱりもう少し安くないと売れない”と言い出す例があります。悪質なケースでは、そこでグルになっている別の業者が登場して、市場価格よりも安い値段で物件を買い取ろうとする。買い取った業者は市場価格近辺で物件を売って、儲けを出すわけです。“なかなか売れない”という売り主の焦りを利用したやり口です」(同前)
普通の人は家を売る機会なんてそう何度もない。だからこそ、大切にしてきた我が家を安値で手放すことになりかねないというのだ。
※週刊ポスト2021年6月4日号