定年などのタイミングで生活費を見直さなくてはならないのに、変化を怖れて支出を絞れない人は少なくない。家計再生コンサルタントの横山光昭氏はこう指摘する。
「退職などで収入が減ったのに支出が減らせない人は、住居費や通信費、生命保険の保険料などの『固定費』に手を付けられていないことが多い。毎月引き落とされる保険料や携帯電話代などの負担の大きさを自覚せず、現役時代のままにしてしまっている。
また、家計が苦しくなって私のところに相談に来る人の約7割は、毎月の家計支出がいくらなのか把握していない。体重計に乗らずにダイエットをしようとしているようなものです。
携帯電話にしても、ブランドの安心・信頼感がある大手キャリアである必要はなく、自分の使い方に合わせて格安スマホを選んだっていいわけです。そうした固定費の見直しができないと、中途半端に娯楽・交際費などの変動費を圧縮しようとして、ストレスばかりが溜まる悪循環に陥ってしまうことになります」
経済ジャーナリスト・荻原博子氏も、“なんとなく払い続けているお金”として、生命保険の保険料を挙げる。
「会社の中に保険の外交員が出入りしていた時代を経験している人は、不要な保険に加入しているケースが目立ちますが、ずっと自覚もなく引き落とされてきたから、解約するという発想がなかなかない。そういう見直しができないと、いくら蓄えがあっても足りません」
2019年に金融庁の金融審議会が「公的年金だけでは老後資金は2000万円不足する」という報告書を出したことが大きな話題となったが、前出・横山氏は「あれはあくまで平均の数字であって、一人ひとりが自分の数字を考える必要がある」と指摘する。
「支出を見直したり、働いて収入を増やしたりすれば毎月の赤字が減って、蓄えは2000万円も必要なくなります」(同前)
それは逆に言えば“いい時代”を忘れられずにお金を使い続ければ、いくら蓄えがあっても足りないということだ。
※週刊ポスト2021年6月11日号