遺産をめぐるトラブルを回避するためには、遺言書はとても重要なものだ。しかし、家族のことを考えて残した遺言書が思わぬ火種になることもある。都内在住の男性の死後、妻と2人の子が「評価額3000万円の自宅」と「預貯金3000万円」を相続した。もめることがないよう、生前に遺言書を作成して「自宅は妻が相続し、預貯金は1500万円ずつ2人の子供が相続する」と明記していたのだが……。男性の長男が明かす。
「実は、父には先妻との間に子供がいたんです。幼い時に生き別れた実子は、父の死と、自分が法定相続人であることを親戚に聞いて初めて知り、私たちに法定相続分として1000万円を要求してきました」
しかし、亡父の遺言書には先妻の子の相続分については何も記されておらず、当初、長男らは取り合おうとはしなかった。
「そのうちに、『遺産をよこせ』『父の公正証書遺言に書いていないんだから、分ける必要はない』などと言い争いになり、母も『絶対に渡さない』と感情的になって埒が明かなくなった。結局、専門家に相談することになった」(同前)
税理士の山本宏氏はこう指摘する。
「このケースでは、公正証書遺言は法的に有効ではありますが、結果的に先妻の子供の『遺留分』を侵害したことになってしまいます。そのため男性の2人の子供は、権利を主張する先妻の子に『遺留分』として法定相続分の半分の500万円を、250万円ずつ出すことになりました」
準備を怠ったり、必要な情報を開示しないと、妻と子供たちが引き裂かれかねない。
※週刊ポスト2021年6月18・25日号