「遺言書は用意してある。俺が死んでも、みんな心配しなくていいから」。都内に住む50代男性は、生前の父親からそう言われていた。しかし、一昨年に父親が他界すると、次から次へとトラブルに直面したのだ。
「実家に保管されていた遺言書にたくさんの不備がありました。そもそも日付がなくて無効だったし、遺産の分け方にしても『定期預金は妻に』『田舎の土地と普通預金は長男と次男で分ける』といった大まかなことだけ。銀行口座の数も、土地の地番などもはっきりしない。
それでも、遺産を洗い出し、父の考え通りに分けようと思ったのですが、弟は自分の事業がちょうどうまくいっていない時期だったこともあって、“遺言書が無効なら、自分の取り分はもっと多いはずだ”と主張し始めたのです。
70代後半の母は息子ともめることに落ち込み、体調を崩して一気に老け込んでしまった。結局、私が折れて二束三文にしかならないうえに処分しにくい田舎の土地だけを引き受け、母の取り分ができるだけ残るようにしました」
死んだ後では、大変な思いをしている家族を助けることも、争いを仲裁することもできない。「あの人はなんでこんな死に方をしたのか」――そんなふうに、死後に家族から恨まれた人たちは、どこで「備え方」を間違えたのか。
「この一件以来、娘とは口もきいていません」
トラブルが大きくなりがちなのは、主な遺産が「持ち家のみ」というケースだ。とくに、残された妻と子がもともと疎遠だと、相続を機に決定的な亀裂が入り、自宅を手放さざるを得ない事態を招くこともある。
以下は「評価額3000万円の自宅」と「預貯金400万円」を、残された妻と一人娘が相続したケースだ。