近年、終活を行う人が増加している。本来は、よりよき人生の終焉を迎えるためのものだが、その終活が原因となり、人間関係に亀裂が入ったり、残された子供たちが困難を抱えたりする事例も増えているという。
経済アナリストの森永卓郎さん(63才)は、脳出血で倒れた父親に最期まで寄り添った。最初は在宅で介護をしていたが、がんが見つかってから容体が悪化したため、介護付き老人ホームに移った。
要介護4で寝たきりの状態だったが意思疎通はできたため、森永さんは万が一に備えて口座の数やどこに通帳があるかを父親に尋ねていた。しかし、何度聞いても父親の返事は「わかんねぇな」の一点張りだった。
「認知症のせいではなく、家のことは先に亡くなった母が全部管理していたため、本当にわからなかったのだと思います。私も、『通帳なんてどうせ貸金庫に入っているだろう』と軽く考えていました。しかし、父の死後にその考えがいかに浅はかだったかを思い知りました」(森永さん・以下同)
父親は2011年3月に他界。その後、森永さんは数年にわたって相続の手続きで「地獄」を見る。
「父の銀行口座や生命保険の情報がまったくなく、実家に来ていた郵便物を一つひとつチェックしました。銀行から『口座確認には、預金者の生前のすべての戸籍謄本と相続人全員の合意書が必要です』と言われたものの、父は新聞記者をしていて、九州や神戸など全国あちこちに異動していたので、戸籍謄本をすべて取得するのは気が遠くなる作業でした。しかも、苦労して開示した口座の残高がわずか700円だったこともあり、頭にきて相続を放棄しました(苦笑)」
数千万円の介護費用を負担したが…
森永さん夫妻が父親の介護を行った期間は11年にも及ぶ。しかし、遺産分配の際、父の介護に使った実費が顧みられなかったことにも不満が残った。
「私と妻が父の面倒をみて、生活費や施設の入居代などで数千万円を負担しました。遺産分割の協議の際、それについても話はしたのですが、弟は法律通りの折半を主張しました。『さすがにそれはひどいよ』と文句を言ったら、『兄貴はいっぱい稼いでいるからいいじゃん』と言われました。兄弟で争うのは嫌だったし、父にかかった費用の領収書などを保管しておらず、証拠は何も残っていませんから折半を受け入れましたが、内心、複雑な思いは残りました」