学歴偏重社会での教育費の負担が、出生率低下に拍車をかけている側面があるのだろうか。このことは、中国において大きな問題となっているようだ。中国共産党中央弁公庁、国務院弁公庁は連名で7月24日、「義務教育段階の学生の宿題と学習塾通いの負担をさらに一歩進んで軽減することに関する意見」(双減政策)を発表した。
この政策には「義務教育課程の学生を対象とした学習塾などは今後、非営利性機関としての登記が必要となる。上場による資金調達、上場会社が上場して得た資金を塾などに投資すること、外資による買収、経営受託などを禁じる」といった文言があった。
この政策はまず、地域を特定して実施されるが、指定都市である上海市は「これまで小学生に対して実施していた英語の期末試験について、今後は行わない」と発表した。
こうした一連の措置に対して、海外の市場関係者たちは「経済統制の強化である」と捉え、「上場企業の成長力が鈍化するのではないのか、イノベーションの芽が摘み取られベンチャー投資案件が減るのではないか、中国経済が全体的に内向きとなり、貿易、対内外投資が減少し、経済成長率が鈍化するのではないか」と懸念しているようだ。
しかし、政策の意図を分析する限り、過度に心配する必要はないのかもしれない。中国経済の長期的な発展を妨げる最大の要因は少子高齢化である。それを防ぐために共産党は2016年以降、産児制限を緩和、第二子、第三子の出生を認めたりしているが、際立った効果は見られない。
中国で出生率が上がらない要因を精査すると、“両親の所得と比べて教育費が極めて高いこと”、“学歴が重視される社会であることから両親の教育に対する心理的負担が大きいこと”などが浮かび上がってくる。教育費が高額であることは学習塾など学校外の教育産業に問題があり、学歴偏重社会は国の教育システムに問題があると考えられる。
過度の学校の宿題による負担を減らすと同時に、学習塾通いによる負担を減らす(双減)。広い意味での教育システムを改善し、子供たちの個性を大事にして多様な人材を育てる。現在、両親が感じている子供の将来への不安、満足な教育を与えてやるためには多額の資金が必要であるといった焦燥感を取り除くことが出来ない限り、出生率は上がらない。共産党はそこに強い危機感を持っているようだ。