【最後の海賊・連載第3回 後編】楽天・三木谷浩史氏とソフトバンク・孫正義氏の人生は、時系列こそずれるが数奇なほど似ている。楽天は携帯電話の完全仮想化技術「楽天・コミュニケーションズ・プラットフォーム(RCP)」を開発し、ドイツのインターネット会社1&1に提供するなど、海外に打って出るための布陣を着々と整えている。
そしていまから15年前、三木谷氏同様大手キャリアに挑み、世界の壁を壊しにかかった孫氏には“コンパス”となる男がいた。週刊ポスト短期集中連載「最後の海賊」、ジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。(文中敬称略)
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孫正義が世界に打って出たのは1994年11月。米国のコンピューター関連雑誌出版大手、ジフ・デービス・コミュニケーションズの展示会部門を2億200万ドル(約200億円)で買収した。
「俺は情報革命を起こすんだ!」
そう叫んでいた孫が株式を公開して市場から調達した資金を最初に投じたのが出版社の展示会部門。意外な展開に世間は首を傾げた。「なぜ展示会なんですか?」。
私が尋ねると孫はニヤリと笑った。
「いいか。未開のジャングルや大海原に乗り出す時、一番大事なものは何だか分かるか」
「水、ですか?」
「まあ、それもそうだが、道に迷ったらいずれ水もなくなるだろ」
「ああ、そうですね」
「コンパスだよ。目的地に辿り着くには、正しい進路を教えてくれるコンパスが必要だ。ジフ・デービスは私のコンパス。あるいは魔法の水晶玉になる」
1994年といえば、インターネットの爆発的な普及を促すマイクロソフトの「Windows95」が発売される前の年だ。
「インターネットで世界が変わる」
それはみんなが知っていた。しかしグーグルもアマゾンもフェイスブックもまだ姿を現していないこの時代、「誰が、どうやって変えるのか」は誰にも分からなかった。
時代が混沌とする中、ジフ・デービスが主催する米国最大のコンピューター展示会「コムデックス」は、野望に満ちた海賊たちが最先端のテクノロジーを携えて集まる「砂漠のオアシス」だった。東西南北、あらゆる方角から集まった海賊たちは、ここで情報の渇きをいやした。
「西に天才がいるらしい」
「東に神童が現れた」
世界を目指した孫は、海賊たちが集う「オアシス」を真っ先に押さえたのだ。