卵子提供、精子提供、体外受精……生殖医療の発展により、年齢や性的指向を問わず、子供を持つことができる時代になった。そして、卵子・精子の提供に関わる「生殖ビジネス」も増えているというが、そこには問題もある。そのひとつが、「遺伝子の取捨選択」だ。
一部のあっせん業者では、卵子の提供者となる女性には、事前に詳細な情報の提供を求める。年齢、身長、体重、血液型、人種のルーツはもとより、まぶたは一重か二重か、最終学歴はどこか、身内のがんなどの病歴、髪の色や太さまで記入させられることもある。
SNSでは「東大卒」と自称する男性が精子提供のボランティアをしていたり、自身の容姿の特徴や子供の頃の運動習慣まで細かく記載した個人サイトを持つ男性もいる。
「生まれたときから優れた才能を持たせられるなら、そうしてあげたい」と思うのも、当然の親心かもしれない。だが、“エリート遺伝子”を高値で売る業者が跋扈すると、新たな問題が起きる。
すでにヨーロッパや中国では、容姿端麗な女性や、輝かしいキャリアを持つ女性の卵子が高値で売買されており、その実情は日本国内よりも生々しい。購入者が着床すれば、出産まで月々十数万円の報酬が出ると報じられたこともある。
「一流大学卒の高いIQに優れた運動能力、二重のまぶたで鼻は高く高身長、いっそのことブロンドで青い目……」などと、親の好みの受精卵を“デザイン”することができてしまうのだろうか。
金沢大学大学院医薬保健学総合研究科助教の日比野由利さんは、「完全なデザイナー・ベビーをつくることは難しいはず」と話す。卵子提供は国内では基本的には認められていないうえ、そもそも日本人のドナーが少なく、細かく条件を指定して選ぶことができない。産婦人科医で岡山大学大学院保健学研究科教授の中塚幹也さんも指摘する。
「そもそも、優秀な遺伝子を選んだところで、実際に子供がその特徴を持って生まれるかは“神の領域”で、操作できるものではありません。それに、その子が優秀に育つかどうかは環境要因も大きい。期待通りに育たなかったことで愛着を持てなくなったり、反対に親とかけ離れた天才児が生まれて手に余ったりしたら、幸せな親子だといえるでしょうか」