時に言葉は、人を深く傷つける凶器にもなる。それが親からの言葉であれば、子供の人生に後々まで影響を与えかねない。親にしてみれば、しつけの一環やちょっとした冗談のつもりでも、子供にとっては心に大きなわだかまりを残し続けることもある。そして、親への不信感や怒り、失望など、さまざまな感情を抱きながら、自分の存在に自問自答を繰り返した人もいる。そんな彼ら/彼女たちは、大人になった今、何を思うのか──。
後で親に聞いたら「覚えてない」
「今思い返しても、私が言われた母親の言葉は人生に暗い影を落としてきたと思います」
そう明かすのは、40代主婦のAさんだ。父親は町工場の経営者で、母親は従業員を支える立場にあり、常に父親のサポートに追われていた。Aさんはその家庭の長女として生まれた。
Aさんは「SNSでもよくネタになっているので、これを言われたことがある人は多いかもしれません」と前置きしながら、挙げたのは「あんたは道で拾ってきた子」という言葉だ。
「だから、家に置いてあげてるだけでも感謝しなさいよね、と。私が何か親の気に入らないことを言うと、決まってこう返されました。よく考えたら、さっぱり意味がわかりません(笑)。しかも、私の名前には『道』という感じがついていることから、母は『道で拾ってきたから、道の漢字を入れたのは当然でしょ?』と言い放ちました。もしかしたら本当にそうなのかもしれないと、20代前半に自分の戸籍を確認するまでずっと“拾われた子”の疑念は拭えませんでした」(Aさん)
親への不信を抱いたのはそれだけではない。小学生の時、電車で痴漢にあった時のことだ。Aさんは親から「あんたに隙があったのも悪い」と言われたことが忘れられない。
「小学生でしたし、何が起きたのかわかりませんでした。とにかく怖くて、気持ち悪くて、涙目で母に訴えたら、まさかの言葉に絶句しました。当時はそこまで深く考えていませんでしたが、母親としてというより、人としても問題がある発言だと思います。私としては、『怖かったね』の言葉が欲しかっただけなんです」(Aさん)
Aさんは結婚して子供が生まれた30代前半になって、そうした言葉を放った親の真意を知りたくなり、「ああ言ったことをどう思っているのか」と尋ねたことがあることがある。返ってきたのは意外な言葉だった。