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マスク氏は極小住宅に住む お金があっても質素な生活を好む「新しいタイプの大富豪」の価値観

「史上最速で大富豪になった男」サム・バンクマン=フリードの生活はミニマリストそのものだという(Getty Images)

「史上最速で大富豪になった男」サム・バンクマン=フリードの生活はミニマリストそのものだという(Getty Images)

 日々様々なイノベーションが生まれ、自分らしく自由に生きる「リベラル化」が広がりつつある現代。しかし、物質的にも精神的にも豊かになる一方で、高度化・多様化する社会に取り残され、将来に絶望している若者も少なくない。そんな中、「テクノロジーを上手く駆使して莫大な富を築く若者も登場している」と語るのは、新刊『裏道を行け ディストピア世界をHACKする』(講談社現代新書)が話題の作家・橘玲氏だ。新しいタイプの大富豪たちの生き方から見えてくる“新たな価値観”とはどのようなものか。橘氏に聞いた。

――橘さんは、攻略が極めて困難なゲーム(無理ゲー)と化した社会に放り込まれてしまった若者の絶望や生きづらさを、前著『無理ゲー社会』(小学館新書)で解き明かしました。最新刊では、攻略困難に思われる社会でも、常識やルールの裏をかいて莫大な富を築いた新しいタイプの大富豪の存在を指摘しています。

橘:「知識社会化、グローバル化、リベラル化」という三位一体の巨大な潮流の中で、現代社会はとてつもなく複雑化しています。これまで社会の片隅に追いやられてきたマイノリティにも平等に権利が与えられるようになった一方で、知識社会に適応できずに仕事を失い、自尊心を奪われ社会に絶望するひとたちが増えています。「下級国民のテロリズム」が頻発するのは日本だけではなく世界的な現象で、あちこちで価値観の違う者同士の衝突が生じています。

 高度化・複雑化する一方の社会で人生の難易度が上がった結果、これまで通りの人生設計は通用しなくなりました。このことにいち早く気づいた(とてつもなく)賢い若者たちが金融市場を“ハック”して、大きな成功を手にしています。

 1992年生まれのサム・バンクマン=フリードは、投資会社のトレーダーを経て2019年に暗号資産(仮想通貨)のデリバティブ取引所FTXを設立し、29才の若さで1兆円を超える資産を築き、「史上最速で大富豪になった男」と評されました。1994年生まれのヴィタリック・ブテリンもブロックチェーン技術の可能性にいち早く目をつけ、19歳で「イーサリアム」を開発しています。

――若くして巨万の富を得た彼らの暮らしぶりは、これまでの大富豪のイメージとは異なるのでしょうか。

橘:アメリカのミレニアル世代(1980~1995年生まれ)の間では、最小限のモノだけで生きていく「ミニマリズム」と、経済的独立や早期退職を目指す「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」という2つの人生戦略が広まっています。アメリカの仮想通貨規制を避けて香港に移住したバンクマン=フリードは、友人とシェアルームに住みながら、いつもTシャツと短パン姿で過ごしています。美食とは無縁のヴィーガン(完全菜食主義者)で、香港中心部にあるオフィスは、どこでも寝られるようすべての部屋にビーズクッションが置かれているといいます。大富豪であるにもかかわらず、そのライフスタイルはミニマリストそのものです。

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