年度末は人事異動の季節。会社員の中には、異動を言い渡されるとともに転勤・引っ越しをする人もいるだろう。全国に事業展開する会社に勤務していれば、転勤は覚悟しておくべき当たり前のイベントのひとつだったかもしれないが、最近ではリモートワークの普及によって、ちょっと様相が変わってきているようだ。どういうことか。地方支社から東京本社への“栄転”を言い渡されて困惑する会社員の実例を、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が報告する。
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A氏(40代男性)は、現在、単身赴任で某企業の福岡支社に勤務しています。佐賀県唐津市の自宅から福岡・天神のオフィスまで週に1~2回通い、他の日は唐津でリモートワーク。元々「福岡に住んでも東京とあまり変わらない」と感じていて、まったく別世界で自然が豊富でのんびり暮らせると感じた唐津に住むようになったのですが、えらくこの街を気に入っています。月に1回、東京に住む家族の元へ行くための交通費も支給されています。
A氏は平日でも毎朝SUP(スタンドアップパドルボード)をしてから仕事しており、休日は唐津焼を作ったり、釣りや虫捕り、九州各地のサウナや温泉を周ったりするなど、九州生活を存分に堪能しています。唐津市内のイベントにも積極的に参加し、地元の知り合いもかなり多いです。そういった「地縁」ができたため、会社は彼を九州全体のビジネスのリーダーにして、東京と九州の間を繋げる役割を担う存在にすることもできたと思います。
ところがサラリーマンに人事異動は付き物。今年3月いっぱいをもって、福岡支社から東京本社に異動・転勤することになったのです。先日、唐津で送別会をしたのですが、こんな流れの会話になりました。
「じゃあ、引っ越しは3月29日とか? 4月1日から東京に行かなくちゃいけないんだろ?」
「いや、それが4月17日なんだ」
「えっ? なんで? そんな変な人事異動のタイミングなんてあるの?」
「次の部署、フルリモートなんで会社へ行く必要はないんだ。とはいっても、どうしても行かなくちゃいけない日があって、それが17日なんで、その日に引っ越すことにした」
「フルリモートなんだったら引っ越す必要ないじゃん!」
「そう、オレも『よっしゃ、フルリモートだったら唐津に残れる!』と思ったんだが、どうも東京に戻らなくてはいけないらしい」