子供が独立した後、高齢夫婦で住むには広くなりすぎた戸建てを売却し、ダウンサイジングしたマンションに住み替える――ライフプランとして理に適っているように思えるが、実際にはそう簡単にいかないことが多い。不動産ジャーナリストの榊淳司氏が言う。
「戸建ての自宅の売却問題をクリアするのが前提ですが、仮に売却できてマンションを購入しても、今度は管理費や大規模修繕に向けての積立金など、それまでかからなかった月々のランニングコストが新たに発生します。特に近年は人手不足により、管理費が10年前の1.5~2倍程度になっている。修繕積立金が購入時の2~3倍に跳ね上がることもざらにあります」
不動産コンサルタント「東京カンテイ」の調査によると、2019年の首都圏のマンション管理費の平均は月1万9085円、修繕積立金は同7826円だった。これらはマンションを購入し、所有者となった場合の負担だが、賃貸マンションの場合、管理費や修繕積立金の引き上げ分がそのまま家賃に転嫁されることもある。
さらに車を所有していれば、駐車場も借りなければならない。前述の東京カンテイ調査による首都圏の駐車場代平均額は2万3563円に達する。
そうした月々の負担増に加え、さらに深刻なのが、マンションの「管理不全」問題だ。住民の高齢化や空室の増加、管理会社への支払いが滞るなどして、建物全体の管理が困難になっているケースは少なくない。住宅ジャーナリストの山下和之氏が言う。
「築年数が古いほどマンション価格、賃貸の家賃ともに安くなりますが、その一方で、老朽化が進んで空室が増加したり、居住者の高齢化でマンション管理組合の役員のなり手がいなくなって、管理不全に陥るマンションは少なくありません。組合が管理会社への業務委託費用を支払えず、会社が手を引いてしまうケースもあります。
そうなると、共用部の日常清掃や維持管理だけでなく、建物の補修・修繕も難しくなる。たとえば、剥落した外壁を修繕せず放置すれば、劣化が進んで内部のコンクリートや鉄筋が傷み崩落の危険が生じる。マンションの管理不全は最悪の場合、生命にかかわる安全面の問題を招きかねません」