【書評】『ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?』/ひろゆき、竹中平蔵・著/集英社/1430円
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
本書は、ネットの世界で若者から圧倒的支持を受ける実業家のひろゆき氏と、全世代から嫌われる竹中平蔵氏の「言論プロレス」だ。
私は、大学でディベートも教えているのだが、さすがに「論破王」と称されるひろゆき氏は、ディベートのなかで最も効果的な方法で竹中氏を追い詰めようとする。相手の矛盾を突く方法だ。
竹中氏の基本的スタンスは、自分は普通の大学教員であり、私腹を肥やすためではなく、国民が幸せになるための経済政策を提言しているだけだというものだ。ひろゆき氏は、8400万円の金融資産を持つ人は金持ちか貧乏人かと質す。しかし、竹中氏は、それは主観の問題とはぐらかす。8400万円というのは、竹中氏が保有するパソナ株の時価総額だ。誰がどう見ても、それだけで大金持ちだが、竹中氏は、なかなか尻尾をつかませない。
そしてひろゆき氏は、核心となる利益相反問題に斬りこんでいく。経済財政担当大臣の時代に製造業への派遣労働を解禁し、その後、パソナの会長に就任した問題だ。これに対して、竹中氏は、派遣法は厚生労働省の所管で、自分には権限がないとはぐらかす。それでもひろゆき氏は、追及の手を緩めない。追い詰められた竹中氏は、「自分が所属するパソナは、製造業の派遣を一切やっていない」と語る。
ディベートは相手を陥れるゲームだから、本筋と関係ない話を持ち出すのはOKだが、ウソはダメだ。実際、パソナ・JOBサーチというサイトをみれば、製造業への派遣の仕事は、いくらでも出てくるのだ。
ただ、一番の問題は、竹中氏の自分の提唱する政策は経済学の基本中の基本だとする主張だ。本当は、竹中氏が信奉する新古典派経済学そのものが大問題なのだが、そこへのひろゆき氏の批判はない。それは当然で、両氏とも実は弱肉強食経済学の支持者なのだ。権力者に取り入っておこぼれをもらうというのと、広く薄く庶民からカネを集めるというビジネスモデルの違いがあるだけだ。ただ、プロレスとしては、実に楽しめる本だ。
※週刊ポスト2022年9月9日号