株主になれば、その企業の商品詰め合わせや食事券、施設の利用券、映画の鑑賞券が特典としてもらえる──個人投資家のささやかな楽しみとも言える「株主優待」制度。ところが近年は、大手企業の優待廃止や縮小が相次いでいる。
投資家向け広報コンサルティングを手掛ける大和インベスター・リレーションズの調査によると、2020年10月から2021年9月の1年間で株主優待廃止に踏み切った企業は75社で、過去10年で最多。今年に入っても、缶詰・冷凍食品大手のマルハニチロ、フードサービス大手のシダックス、JT(日本たばこ産業)など、株主優待が好評だった有名企業が次々と廃止を発表している。
その背景には、今年4月の東証再編で、上場維持に必要な株主数が2200人以上から800人以上に大幅緩和されたことで、株主数確保のために個人投資家向けの優待を実施する必要性が薄れた点や、企業の株主への還元方法が優待より配当を重視する傾向が強くなったことなどが挙げられる。
優待目当ての個人投資家にとって、優待廃止や縮小は少なからず投資行動に影響を与えるだろう。
優待制度の存続を見極める材料の1つになるのが「優待品の内容」だとマーケットバンク代表の岡山憲史氏は言う。
「QUOカードやカタログギフトなど、優待品が“非自社系”の企業は優待廃止のハードルが低いと考えられます。実際、(全国の名産品が選べるカタログギフトがもらえる)オリックスや、優待品がQUOカードだった不動産販売・賃貸管理業のシノケングループなどは廃止を決めました」
一方で、優待廃止の可能性が低い企業・業種もある。ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏はこう言う。
「これまで長期間にわたり優待を実施していて業績回復が見込める企業、自社サービスや自社商品の優待を始めたばかりの企業は、当面は廃止や縮小の可能性が低いと言えるでしょう。大手スーパーやテーマパーク、地方銀行、鉄道会社などは企業イメージの低下を恐れて、優待を廃止・縮小する可能性は低いと思われます。
また、優待廃止を決める企業がある一方で新規に始める企業もあり、市場全体では株主優待が激減しているわけではありません。ただし、今後は優待を廃止してその分を配当に回す企業の増加が予想されるので、投資家の戦略として、優待を目的とした投資ではなく、配当利回りに着目した投資スタイルを選択してもいいでしょう」