株主になれば、その企業の商品詰め合わせや食事券、施設の利用券、映画の鑑賞券が特典としてもらえる──個人投資家のささやかな楽しみとも言える「株主優待」制度。ところが近年は、大手企業の優待廃止や縮小が相次いでいる。
投資家向け広報コンサルティングを手掛ける大和インベスター・リレーションズの調査によると、2020年10月から2021年9月の1年間で株主優待廃止に踏み切った企業は75社に上り、過去10年で最多となった。上場企業全体に占める優待制度の導入比率(37.9%)も、2019年のピーク時から低下している。
昨年10月から今年にかけても株主優待廃止の流れは止まらず、缶詰・冷凍食品大手のマルハニチロ、フードサービス大手のシダックス、JT(日本たばこ産業)など、株主優待が好評だった有名企業が次々と廃止を発表している。
個人投資家の60代男性が言う。
「5年前から、株主優待を目的にそれらの株を保有していました。シダックスはグループ会社製のワイン、マルハニチロは水産物缶詰の詰め合わせなどがもらえたんです。毎年、優待品のワインと高級カニ缶で晩酌するのが楽しみでしたが、それがすべてなくなることになり、本当に残念。株価の上げ下げを細かくチェックしながらの売買で利益を出そうとは考えていないので、今はそれらの企業の株を手放すことも考えています」
株主優待廃止の背景について、マーケットバンク代表の岡山憲史氏はこう言う。
「理由は大きく3つ考えられます。1つ目は、今年4月の東証再編で、上場維持に必要な株主数が2200人以上から800人以上に大幅緩和されたことです。企業からすると、株主数確保のために個人投資家向けの優待を実施する必要性が薄れました。
2つ目にコロナ禍の影響で業績が大幅に悪化した企業には、株主優待制度自体が負担になっていること。そして最も大きい3つ目の理由として、企業の株主への還元方法が、優待より配当を重視する傾向が強くなったことです」
日本の個人投資家には魅力的でも、外国人投資家や機関投資家にとって日本国内向けの製品・サービスなどで還元される優待制度はメリットが薄い。企業側も、株主への「公平な利益還元」を理由に優待制度の縮小・廃止に動いているというのだ。