物価高騰が国民生活を直撃するなか、岸田文雄・首相は10月3日の所信表明演説で「家計・企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じます」と訴えた。しかしそのウラで、国民をさらに苦しめる計画が政府内で進められている。「岸田年金改悪」だ。
9月28日付の日本経済新聞一面には〈国民年金「5万円台」維持へ 抑制策停止、厚生年金で穴埋め〉という見出しが踊った。厚労省は、国民年金(厚生年金加入者は「基礎年金」と呼ばれる)の支給額を将来的に「5万円台」に維持するために、サラリーマンが加入する厚生年金の報酬比例部分(2階部分)の支給額を減らし、浮いた財源を国民年金に回して穴埋めする仕組みを検討しているというのが記事の内容だ。政府の社会保障審議会年金部会でこの秋から制度改正の議論が始まると報じている。
この改革プランで、国民年金の自営業者と厚生年金のサラリーマンのほとんどの層で年金額が増え、損をするのはごく一部の高額所得者だけ、と言われているが、そもそもトータルの年金財源は変わらないのに、年金支給額を増やすというマジックが“トリック”なしでできるわけがない。そのカラクリについては、マネーポストWEBの別記事〈国民年金を厚生年金で穴埋め 岸田政権が進める「令和の年金大改悪」の姑息なトリック〉で詳細に報じているので参照してほしい。
この岸田年金改革はこれから年金を受給するサラリーマン世代を狙い撃ちするものだが、政府は物価高騰の影響を最も受けている年金生活者にも負担増の矛先を向けている。
社会保障審議会の年金部会は9月29日に改革論議をスタートさせたが、同じ日に開かれた医療保険部会では、出産時に健康保険から支払われる「出産育児一時金」(原則42万円)の大幅増額が議論され、その財源を「75歳以上の高齢者」にも負担させる方向だ。
「少子化対策を幅広い世代で担う」という口実で、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の保険料アップなどが検討されている。そのうえ後期高齢者はこの10月から医療費の窓口負担が原則1割から2割へと引き上げられ、病院代や薬代が2倍になった人も少なくない。経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう語る。
「団塊世代が後期高齢者になりはじめ、今後、医療費が増えて健康保険財政が厳しくなるから負担を増やそうということでしょうが、いまやることではない。現役世代は給料が増えないから子供を増やせない。少子化が進むから年金は減らし、子供を増やすために年金生活者に出産一時金の財源を負担させる。やっていることが無茶苦茶。社会保障制度の抜本的な見直しから目を背け、取りやすいところから取ってしまおうという場当たり的な対応で酷すぎます」
自民党は「全世代型社会保障改革」などと言うが、蓋を開ければあらゆる世代の負担を増やそうとする詐術である。この政権は、亡国の道を突き進んでいる。
※週刊ポスト2022年10月21日号