コロナ禍で長期間の外出自粛を強いられたことで、人々の健康への影響が危惧されている。なかでも日常の活動量低下が筋力や認知機能の低下に直結しがちな高齢者にとって問題は深刻だ。そうした高齢者が元気を取り戻すためのツールとして、「昔ながらのデパートでの買い物」が役立つケースがあるようだ。いったいどういうことなのか。ライター・田中稲氏が、ともに暮らす80代母の実体験をもとに綴る。
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デパート、百貨店が閉店ラッシュなのだそうだ。2016年ごろからショッピングモールの台頭、EC市場の拡大で百貨店離れしていたところに、2020年からコロナという追い打ち。山形市の大沼百貨店や広島市の天満屋広島アルパーク店など、各都市の老舗百貨店が相次いで閉店。地方百貨店だけでなく、新潟三越、横浜の高島屋港南台店、神戸のそごう西神店ほか、大手流通グループ系百貨店の閉店も続いている。2023年1月末には渋谷の東急百貨店本店(跡地開発計画のため)、高島屋立川店も営業が終了するそうだ。
私の最寄りの百貨店はまだあるがヒヤヒヤする。持ちこたえてほしいと切実に願う。というのも、コロナ自粛が落ち着いてきても気鬱が激しいままで、外に出なくなった母を引っ張り出せたのは、百貨店のおかげなのである。
コロナ自粛と「フレイル」
コロナ禍の「禍」は、決して感染症だけではなかった。むしろ、それによる精神的ダメージが深刻。特に高齢の母は、世の中の暗い空気をマトモに受けてしまった。行動規制が明けても家から出ない。テレビの前から動かず、日に日にソファと同化していく。しかもそのテレビから流されるのは、感染者数や戦争のニュースばかりである。落ち込むのは当たり前で、食欲と体重もみるみる落ちていった。
困り果てた私は母のその状態を検索し、はじめて「フレイル」という単語を知った。まるでSFファンタジーの主人公、もしくはお菓子のように洒落た響きだが、その意味は「虚弱」。健康な状態と要介護状態の間! とんでもなく厄介ではないか。なんとかせねば。予防や改善のために、資料には「社会と接点を持つこと」が大事と書いてある。
が、気力がなくなっているのにヤレ外に出て歩けとかヤレ通常に戻ろうとか言っても悲しいほど響かないのは、誰でも同じだ。きっと「老いた自分が子に迷惑をかけている」と罪悪感もあるのだろう。どんどん自己肯定感を失っていく。さらに気鬱になる──。フレイルはそうやって進んでいく。困った。
あの手この手で励ましたり褒めたり気合いを入れたりの繰り返し。その中で結局、一番効果があったのが、シンプルな「百貨店でキレイなもの観ておいしいもの食べよう」だった。