コンパクトハッチバックの世界的な基準、ゴルフを世界中に送り出しているフォルクスワーゲン(VW)が、急速に進むBEV(バッテリーEV)シフトに対する答えとして用意した「ID.」シリーズ。その中でも最近人気のコンパクトSUVタイプとして登場したのが「ID.4」だ。エンジン時代を象徴する1台となったゴルフ同様にID.4は、BEV時代の象徴となれるのか? シリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」。自動車ライターの佐藤篤司氏が「ID.4」を試乗してレポートする。
* * *
エンジン以外の自動車の楽しさとは?
エンジンの時代を過ごしてきた身としては、最近の急激なBEVシフトには違和感を覚えることがあります。いま、世界中で2035年をひとつの境としてエンジン車、つまり内燃機関と決別する(販売しない)という決断に向かって動き出しています。近い将来、世界中をBEVが走り回ることでしょう。そして、少しでも早く脱炭素社会の構築に努力を惜しまず、最善を尽くして前倒しできるならやるべきだと思います。ただ、そんなに急激なシフトが実際に可能なのでしょうか。
もっともEVシフトが進んでいる欧州では、新車販売台数のEV比率は11%、中国ではNEVと呼ばれる新エネルギー車(EVをはじめ、プラグインハイブリッドや燃料電池車を含む)の比率が10%を超えています。そしてEV化が一部の州を除き、それほど進んではいないと思われていたアメリカでさえ、全米平均のEV普及率は3%を超えています。この普及率という数字で見ていくと日本の1%前後という現実がいかに低いか理解できますし、国内のメディアやユーザーたちの焦りも理解できます。
だからと言って、もっとも現実的な対応策である「つなぎの技術」としてのハイブリッド(HEV)や、長距離のBE V走行が可能なプラグインハイブリッド(PHEV)をはじめとした選択肢までも完全に閉ざしてもよいのか? 他にも現実的でダメージの少ない解決策はないのだろうか? などと、いつも考えてしまいます。個人的にはつねに戦略修正をしながら脱炭素社会を目指す、トヨタの「マルチ戦略」(水素やHEV、PHEVも展開)がもっとも現実的だと思っています。
メディアを含めた社会の流れはBEV一択のような雰囲気であり、好むと好まざるとにかかわらず、その主導的立場にはVWをはじめとした欧州メーカーがいます。当然のように次々と新型BEVを投入してきますが、なぜか試乗テストが億劫というか、新車を試すという新鮮な感覚になりにくいのです。
最大の要因はモーターという存在だと思います。滑らかで静かで低速から強力にトルクを発揮して、あっと言う間に目標の速度に達するというフィールにおいて、パワーの強弱はあるにしろ、おしなべて感覚は一定なのです。エンジンのように振動や音や加速感や減速感など、それぞれに感覚が違っていて、それをいかにして魅力に変換しているのか――。モーターにはそんな雄弁さを楽しむ「のりしろ」がなく、なんとも寡黙なのです。
その辺に面白さを求めること自体、時代遅れと言われるかもしれませんが、パーソナルムーバーである自動車には、時代が変わっても色々な面で面白さ、心地よさを求めること自体、間違ってはいないのです。単に移動するだけであれば、自動車でなくても他の移動手段は多くあります。