〈ヒジャブ抗議、相次ぐ死刑 イラン、デモ参加者に「神への冒涜」罪〉〈イラン 元高官の死刑執行 “英のスパイとして機密情報漏えい”〉──これらは昨年12月から今年にかけ、中東イランをめぐり報じられた日本メディアの見出しの一部だ。今も「イスラム法」が採用されるイランでは、刑法分野では特に宗教色が強い法制が敷かれている。「鞭打ち」や「手指の切断」などの身体刑がある一方、「お金」で殺人犯が許されることもあるという。イランほかイスラム圏に残る死刑制度について、歴史作家の島崎晋氏が解説する。
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ウクライナほど注目されていないが、このところ中東のイランが騒がしい。事の発端は、前政権下(保守穏健派のロウハニ政権。〜2021年)ではだいぶ緩められた女性の服装規定を再び厳しくしたことにあった。
イスラムの教えでは、成人女性は人前で肌と髪の毛、身体の線を見せてはならず、外出時には最低でも、ヒジャブという髪の毛と首を覆うスカーフを着用のうえ、着衣もゆったりとしたものでなければならない。ライシ大統領率いる現政権はその教えを徹底させるべく、「道徳警察」による巡回を密にさせた。
現政権の揺り戻し政策に対し、女性たちは不満を募らせた。生活苦への不満と合わさり、反政府感情が危険域に近づきつつあったときに事件が起きた。2022年9月、服装規定に違反したとして、「道徳警察」に身柄を拘束された22歳の女性が3日後に死亡。「道徳警察」による暴行死が疑われ、イラン全土に抗議デモが拡大したのである。
当初は女性だけで構成されたデモ隊だが、長期化するに伴い、男性の参加も増え、治安当局と衝突して、双方に死傷者が出ることも珍しくなくなった。
これに対してイラン政府は“飴と鞭”の策を併用。「道徳警察」の廃止を発表するかたわら、デモ参加者への武力鎮圧と死刑執行、デモ支持者の逮捕といった強硬措置をとり、国連や米欧世界から何度も非難声明を発せられている。
国際的人権NGOの「アムネスティ・インターナショナル」によれば、1991年に国連の死刑廃止国際条約が発効されたこともあって、死刑廃止国は世界の3分の2以上、140か国を超えるまでになった。いまだ死刑制度を存在させているのは55か国(2021年の死刑執行国は18か国)。先進国では日本とアメリカだけである。
死刑制度の廃止は世界の潮流だが、死刑の執行数は中国が年数千件で圧倒的1位と見られている。北朝鮮とベトナムは統計がなく調査のしようもないためランクインしておらず、イランが暫定2位、サウジアラビアが暫定3位という順である。