これまで「おいしい」と思っていたものが、ある日突然、おいしいと感じなくなる。特に味付けが変わったわけでも、自分の味覚に大きな変化があったわけでもない。唯一変わったのは“情報”だ。「知らぬが仏」という言葉もあるが、最近、ビールについてそんな経験をしたというのは、ビールを偏愛するネットニュース編集者・中川淳一郎氏(49)だ。現在タイ・バンコクに滞在中の中川氏を襲った“事件”と、そこで考えたことをリポートする──。
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タイの飲食店ではよく、3種類のビールが提供されます。「シンハー」「チャン」「レオ」の3つです。シンハーはアルコール度数が6.4%と高く(今は5%に)、敬遠していました。アルコール度数が下がっても刺激がなんだか強く、若干敬遠気味。少しオシャレな店で輸入ビールが多い時は、その中に唯一あるシンハーを飲みます。輸入ビールよりは安いからという、ちょっと消極的な理由で。
チャンは飲めますが、若干「重い」かつ「甘い」といった感覚があります。ここらへんはビール飲みにしかよく分からない感覚です。そしてレオですが、これはスッキリとして飲みやすい。「労働者のビール」とも言われ、飲食店でもコンビニでも安いことが適宜あります。シンハーは大抵高く、チャンとレオは同じかチャンが少し高いことが多い。
今回のタイ滞在、レオを中心に、うめぇうめぇ、と飲んでいたのですが、同行している妻が「あのさ、中川さん(※妻は私のことをこう呼びます)が衝撃を受けることを言うね」と切り出しました。一体なんだ?と思っていたところ、「実はレオって発泡酒なんだって」と衝撃の一言が発せられたのです。
これまでと何も変わらないはずなのに…
あくまで日本の税法上の分類ですが、レオは麦芽率がビールとしての基準を満たしていないのです。タイの場合、麦芽率によって税率が変わるわけではないのですが、スッキリとした味わいを出すために、レオは麦芽率を下げているのでしょう。
実は私は、日本で発泡酒が登場した1994年以来、「こんなビールのまがいものなど飲むものか!」といったスタンスを貫いてきました。もちろん、コロコロと変わる税制に対応すべく、顧客に少しでも安く飲めるお酒を提供しようと奮闘するビール会社の企業努力には頭が下がります。でも、やっぱりビールが飲みたかった。
飲食店に行った時、「生ビールジョッキ一杯300円」などとやたらと安い値段で提供している店で、「なんか味が変だぞ」と思って樽を見ると、発泡酒のブランド名が書いてあったりする。そんな時は、すぐに瓶ビールに変更します。発泡酒をビールの代わりに飲むという発想は一切ありませんでした。