問題は、今回のレオですよ……。家人に発泡酒であることを伝えられた後、私はどうしたか? 残念なことに、まったくレオを飲まなくなってしまったのです。
「これまで好きで飲んでたんだから、同じでしょ? もう一回飲めば」と言われて飲んでみたのですが、なんだか薄っぺらいビールみたいな味わいに感じられます。私自身の舌は変わっていないので、単に発泡酒に対する偏見でこのような変化が発生してしまったのでしょう。レオは悪くありません。しかし、「レオは発泡酒だった」という衝撃の事実を知った後は、チャンばかり買って飲むようになりました。
まさかのノンアルコールビール事件も!
実は同じような経験は過去にもありした。チェコへ旅行した時、「BIRELL」というビールがたいへんおいしく、これを毎日ホテルで飲んでいました。
BIRELLは安くて、かつライトな飲み心地で重宝していて、チェコ最終日、ドイツへ向かう電車に乗る前に缶を2本買いました。そして「いざ飲みますか!」となった時に、あらためてラベルをよく見たら、なんとコレはノンアルコールビールだった……。私はビール偏愛男なのですが、まさかのノンアルビールをビールだと思い込み、うめぇうめぇ、と言っていたのです。
もしこの事実を知らなかったら、再びチェコへ行った時にBIRELLを買って、うめぇうめぇ、と飲んでいたことでしょう。でも、もうそういうわけにはいきません。飲食物の好き嫌いというものは、個々人の味覚だけによるのではなく、“情報”に左右されるところも多分にあるのではないでしょうか。レオについてもBIRELLについても「知らなければよかった……」という気持ちは今でもあります。
あとはビールに限らずですが、他人の指摘を受けて、好みが変わってしまった経験もあります。以前、アメリカでよく行っていた中国料理店で、そこの麻婆豆腐が大好きでした。しかしある時、一緒に店に行った父親が「ここの麻婆豆腐はそんなにウマいか? 他のを頼んだ方がいい」と言いました。母は「そんなこと言わないの!」とたしなめましたが、その後に食べた麻婆豆腐は、ひき肉部分の脂が多く感じ、以前ほどおいしいとは思えなかったのです……。そして以後は、注文しなくなりました。
そんなこんなで、今回の“レオが発泡酒だった”事件で、他人の意見や情報に流されない、自分だけの味覚を身につけることがいかに難しいか、あらためて実感した次第であります。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『捨て去る技術 40代からのセミリタイア』(インターナショナル新書)。