このほかに月々の食事代や管理費用なども必要で、サクラビア成城では1か月あたりの生活費として1人入居の場合は33万455円、2人入居の場合は57万3005円を見積もっています。これだけの高価格帯であるにもかかわらず、サクラビア成城には、10年後、20年後の入居を待つ待機会員が30人以上いるそうです。
金額を見てわかるように、高級な介護つき老人ホームは一般の人が利用できる価格帯ではありません。富裕層のなかでも、限られた人だけが入居できる施設になっているといえるでしょう。
富裕層も孤独を感じている
私が税務職員の頃に不思議に感じたのが、高級老人ホームに入る富裕層の心理でした。相続税調査の回数を重ねて、富裕層は質素倹約を重視すると考えていただけに、いくらサービスが優れているとはいえ多額の入居金を払って高級老人ホームに入ることに違和感を覚えたのです。
相続税調査のときに老人ホームのことが話題に上ったことがあります。夫婦で高級老人ホームに入り、夫に先立たれた女性に話を聞いていたのですが、「本当は自宅に最期までいたかったけれど、もう私1人だし、子どもたちに迷惑はかけられないから」と話していました。
まずは、このような気持ちが老人ホームに入居する理由の1つなのだと思います。富裕層の家は広いですが、親子で同居するケースは少ないです。多くの場合、妻が1人残されることになります。
そして起きがちなのが、「話し相手がいない」という状況です。富裕層の家は広いため、1人暮らしだと孤独はいっそう際立ちます。ペットを飼う富裕層が多いのにも、こうした理由があるのかもしれません。
そのようなことが相続税調査のときに垣間見えたことがありました。相続税調査のスタイルは職員によって違いますが、私は徹底的に聞き役に回ることを意識していました。「いきなり本題に入るのは三流。まずは警戒させずに話をしてもらうのが大事」と上司や先輩から教わったからです。
そのため私は、税務調査の当日、午前中いっぱいの時間をかけて相続人である女性からひたすら話を聞きました。生い立ちや、仕事の変遷など、亡くなった被相続人の人生をたどりながら、いろいろな話を聞いたのです。
すると女性が涙を浮かべ、「こんなことを人に話すのは久しぶり」といいながら、夫婦のなれそめや苦労話などを明かしてくれたこともありました。
そこで私が感じたのが、生活にはなに不自由ない富裕層であっても、話し相手を求めているのではないか、ということでした。あるいは、富裕層だからこそ孤独な状況にあるという見方もできるかもしれません。