世界の中央銀行による金購入は13年連続増加
銀行の収益モデルは通常、一定の利息を支払うことで個人、企業などから資金を預かり、それを事業投資、金融商品の運用などに回し、金利収入、運用益を得ることで成り立っている。ローンや投資、運用の回収はすぐにはできないが、預金については銀行への信頼が無くなれば簡単に引き出されてしまう。
銀行は経営が苦しくなれば、企業への貸出を渋り、資金回収を早め、運用する金融商品を売らざるを得ない。そうなれば企業の資金繰りは厳しくなり、設備投資は延期、中止される。経営難の企業、高いレバレッジで事業を展開する企業の一部は倒産を余儀なくされる。金融市場ではリスクの高い商品から順に大きく売られる。
金融システムは微妙な安定の下に成り立っている。国際業務を行う金融機関に対して厳しい自己資本規制が実施されているが、一旦信用危機が発生してしまえば役に立たない可能性すらある。
長期に発生している市場構造の変化も価格上昇の一因だ。
供給の伸びが極めて小さい中で、世界の中央銀行が金を買い入れている。ワールド・ゴールド・カウンシルによれば、2022年の世界の中央銀行による金購入は1136トンであった。13年連続で増加した上に1967年以降で最大規模となっている。
中国では、預金準備における金保有量は2019年9月から2022年10月まで6264万オンスで増減がなかったが、11月以降、4か月連続で保有量が増加しており、2月末現在、6592万オンスまで増えている。
グローバル資産は国際通貨であるドルによって値付けされているが、中央銀行の金購入はドルへの信頼が揺らいでいることが要因ではなかろうか。米国による世界の分断を促すような外交政策、不健全な財政構造、スタグフレーションまたはハードランディングへの懸念などの裏返しともとれる。金価格が急騰している限り、リスク資産への投資には慎重になった方が良さそうだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。楽天証券で「招財進宝!巨大市場をつかめ!今月の中国株5選」を連載するほか、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。