「私にとってはやっぱり子育てと撮影っていうのは今のところ、うまく、できない。それは撮影のシステム的なことだと思う」──映画『ある男』で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を獲得した安藤サクラは受賞の挨拶でそう語った。同作の撮影中は女優業からの引退も考えたほどだという。授賞式というハレの場での“正直な告白”が、業界の枠を超え、仕事と育児の両立に悩む多くの人の共感を呼んでいる。
一方、仕事と育児・家事の関係について悩んでいるのは現在就業中の母親ばかりではない。育児や家事をしながら外に働きに出たいと思っても、一筋縄ではいかない事情を抱える人もいる。フリーライターの吉田みく氏が、自身の「就職」について悩む専業主婦たちに話を聞いた。
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“男は外で仕事、女は家で家事・育児”の時代も今は昔。1990年代に世帯数で「共働き」と「専業主婦」が逆転して以降、その差はずっと拡大してきている。総務省「労働力調査」(2022年)によると、現在、夫婦共働き1262万世帯に対して、妻が仕事を持たない専業主婦の世帯は539万と、倍以上の開きがある(非農林業の雇用者)。
そうした専業主婦世帯の中には、妻に就業したい希望があるものの、簡単には実現できない事情を抱えるケースがあるようだ。
「熱が出た時、俺は迎えに行けないよ」
埼玉県在住の専業主婦・マリナさん(仮名、29歳)は、3歳と1歳の2人の子供を「ワンオペ育児」せざるを得ない事情から、働きに出られない現状だという。
「夫は営業職で仕事が忙しく、両親は遠方に住んでいるため、育児や家事を頼める人は身近にいません。市内の子育て支援サービスには預かり保育などのサポートもありますが、利用枠が少なく予約がなかなか取れないし、子供2人分の料金を支払うとなると金銭的な負担が大きいです。それなら私がワンオペ育児をすればいいと割り切っているのですが、将来のことを考えると、今のうちから貯金はしておきたい。そのためにも、できれば早く働きに出たいのが本音です」(マリナさん)