“日の丸家電”の代表格だった東芝とソニー。今、両社の業績はあまりに対照的だが、その差はたった10年の間に生まれた。決定的な違いを生んだのは、岐路に立たされた時の「社長の決断」だった。『東芝解体』の著者・大西康之氏が迫る。【前後編の前編。後編につづく】
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東芝が投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)に買収され、上場廃止になる。JIP単独では2兆円の資金を賄えず、オリックス、ロームら17社が出資する。
一方、10年前に「倒産寸前」と言われたソニーは2022年度連結決算の最終損益で8700億円の黒字を見込む。日本のものづくりを代表する東芝とソニー。その明暗はどこで分かれたのか。
東芝の「変調」が明らかになったのは2015年。粉飾決算が発覚した時だ。債務超過に陥っており、普通の会社なら倒産していてもおかしくない状況だった。なぜ粉飾に手を染めたかといえば、2006年に約6000億円で買収した米原発機器大手ウエスチングハウス(WH)を中核とする海外での原発建設事業が巨額の赤字を垂れ流していたからだ。
しかし、買収を決断した当時の西田厚聰社長と、買収を実行し、次の社長になった佐々木則夫氏ら東芝首脳は、東芝の連結決算にWH関連の赤字を正しく計上せず、さらにその他の事業の利益を水増しして好調を装った。
東芝がWH買収に固執した背後には、2006年に経済産業省が策定した「原子力立国計画」があった。計画書を書いたのは当時、資源エネルギー庁原子力政策課長だった柳瀬唯夫氏であり、その上司が安倍政権で首相秘書官を務めた経産省出身の今井尚哉氏だった。二人とも強烈な原発推進派である。
西田氏や佐々木氏はWH買収について異論が出ると「これは国策だ」の一言で押し切ったと言われている。ちなみに2018年に経産省を退官した柳瀬氏は東芝クライアントソリューションの非常勤取締役を経て、NTTの副社長に収まっている。
30年以上原発を新設していないWHの内情はガタガタで、そこに東日本大震災が追い打ちをかけた。東芝の海外原発事業はもはやビジネスの体を成していなかったが、それでも経産省色の強い安倍政権は「原発輸出」に固執し、東芝の海外原発事業は泥沼にはまり込んだ。
震災直後の2011年5月、当時、日本経済新聞の記者だった筆者は東京・浜松町の東芝本社で当時会長の西田氏にインタビューした。日本が未曾有の危機にある中、大企業に何ができるのか。私の問いに西田氏はこう答えた。
「あれだけの土地をゼロから復興するというのは世界でも例がないことですからね。スマートシティでもコンパクトシティでもお望みのものを作ってみせます。ただし、どう復興させるかを決めるのはお国です。我々企業は実行部隊ですから」