再上場への道は険しい
東芝はよく「二人の経団連会長を輩出した名門企業」と言われる。
だが、最初に会長になった石坂泰三氏は第一生命の元社長、次の土光敏夫氏は石川島播磨重工業の元社長で、どちらも東芝の生え抜きではない。終戦直後の労働争議で経営難に陥った東芝を立て直しに入ったのが石坂氏であり、後任のプロパー社長の放漫経営を見かねて石坂氏が土光氏を送り込んだというのが真相だ。
石坂氏や土光氏は骨のある経営者だったが、東芝そのものは戦前から「東京電力や日本電信電話(NTT)の製造部門」に近い国策企業だった。その東芝が倒産すれば「国策」が間違っていたことになる。それゆえ東芝は、ゾンビ企業として生きながらえている。
それが顕著になったのが2017年12月の6000億円増資だ。債務超過を解消するため、発行済み株式の過半(54.8%)にあたる新株を発行し、海外の投資ファンドなどから資金をかき集めた。
海外投資ファンドの目的は利益をあげることで「国策」とは相容れない。東芝は「物言う株主」に振り回され、今回の上場廃止に至るわけだが、増資で海外ファンドを招き入れた時点でこうなることはわかっていた。それでも国策の無謬性を保つために倒産は避けねばならなかった。
医療機器の東芝メディカルシステムズ、半導体の東芝メモリといった将来性のある事業はすでに手放しており、残ったのは原発を含む発電、水道管理などの社会インフラ・システム、パソコンのハードディスク・ドライブ(HDD)のストレージ(記憶装置)事業など、地味なものばかり。
再上場への道は険しく、事業のさらなる切り売りを迫られる可能性が高い。
(後編につづく)
【プロフィール】
大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。ジャーナリスト。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年に独立。『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)など著書多数。
※週刊ポスト2023年4月21日号