防犯カメラが万引きの現場を捉えていた場合、逮捕を呼びかけるためにその映像をSNSに公開することに法的問題はあるのか? 弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
家族でマーケットを経営。悩みは万引き。父は防犯カメラを増やしたほど。その成果で、買い物客が品物を盗む様子を収めることに成功。警察には被害届と一緒に画像も提出。最近、父は顔が判別できる画像をSNSに上げ、逮捕を呼びかけると言い出しました。でも、それは逆に犯人から訴えられませんか。
【回答】
人を特定できる画像を公表するので、名誉毀損と個人情報の問題があり、いずれも公表の必要性がポイントになると思います。
万引きしていることを広く公表すれば、万引き犯人の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損することは間違いありません。民事では不法行為となり、犯罪行為にもなりえます。責任を免れられるのは、画像の公表が【1】公共の利害に関することで【2】目的がもっぱら公益を図ることにあり【3】公表事実が真実であると証明できるか、もしくは真実だと信じたことに相当な理由がある場合だけです。
このうち【3】は、万引きが鮮明に映っていて事実を証明できると仮定します。起訴されていない犯罪は、公共の利害に関する事実とみなされるので、万引きの画像である以上、【1】と【3】はクリアします。
しかし、【2】の公表が公益を図る目的といえるかが問題です。犯人逮捕は警察の仕事ですが、万引き常習犯なら、世間に広く公表して被害の拡大を防止することは公益目的といえます。ただ、出来心で一回だけの万引き犯には、過酷な結果になります。この点、当該人物が常習とは断言できないのですから、(腹いせに)過度な制裁を加える目的によるものとして【2】の要件が否定される可能性もあります。